くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「幻影師アイゼンハイム」

幻影師アイゼンハイム

少し前に公開され、見る機会がないままに、あきらめていたのだが、天六ユウラク座で細々と公開していたので、いそいそと出かけた。

映画友達の人が絶賛しただけあって、すばらしい作品でした。

19世紀末のウィーンを舞台に、奇術師アイゼンハイムを主人公に描かれる物語ですが、とのかく、まるで古い幻灯機をみるような淡い、しかも隅が陰になっているような画面でほぼ全編が描かれていきます。
その、不思議な古びた感覚が、この作品の味を見事に表現していて感激。

物語は一人の奇術師に少年の頃に出会った主人公が、やがて身分の違う貴族の令嬢と恋におち、しかしながら身分の違いゆえに引き裂かれるも、後に大人になって再会、そして・・という物語。

主人公アイゼンハイムが演じるさまざまなイリュージョンがなんともすばらしく、しかもその演目それぞれに物語のキーワードが盛り込まれ、しかもいつの間にかラストの物語に引き込まれていく演出は見事。

ラストのどんでん返しは後半あたりからなんとなく予測はできるものの、それがわかった後も、あれ?やっぱりのくりかえしで、ぐいぐいと最後まで引き込んでいく脚本と演出はなんともすばらしい。

いい映画はリズムがいいと私はよく言います。そのリズムって何のこと?と聞く人がいるので、ちょっとこの作品で解説しましょう。

基本的に全体から受ける感覚的なものなのですが、たとえばこの「幻影師アイゼンハイム」では、横からフルショットでとっているかと思わせれば一気に画面の半分を占めるほどのクローズアップの場面をぶつけてみたり、いきなり真上からとってみたりといわゆるモンタージュを多用して、テンポを作り出しています。

連続した動きには人間の目はすんなりとついていきますが、それではせいぜい90秒ぐらいしか集中できず、やがて、退屈という感覚が芽生えます。それをジャンプカットや、先ほどのようなカメラアングルのテンポ、さらには時間と空間を前後させるような緻密な脚本展開であきさせないようにするのが映画のリズムです。

しかも、ただ単に奇抜な展開を繰り返すのではなく、ぎりぎりまで引き込んで巻き返していく、そしてまた説明するように物語をつづっていく、このタイミングと長さが、監督や脚本家の力量になるのです。

そのあたりがみごとに仕上がっていたのがこの「幻影師アイゼンハイム」

そして、ラスト、今までくすんだフィルムのような画面だったのが一気に美しいカラー画面になってラストのハッピーエンドの風景を見せる。まったく、幻影を見せられていたような錯覚からの開放される感動にこの映画の真骨頂が見られますね。
本当にいい映画でした