くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「12人の怒れる男」

12人の怒れる男

この作品をみて、シドニー・ルメット監督の名作を思い出さない人はおそらく皆無に近いでしょう。たとえ、映画ファンならずとも、あまりにも有名なオリジナル版はいまなお、映画史に燦然と光っています。

そんな金字塔をリメイクしようとしたのが、ロシアの世界的巨匠ミキータ・ミハルコフ監督。

そんなわけで、オリジナル版を見ていないというハンディをものともせず、ひたすらミハルコフ監督作品としてこの作品を見てきました。

正直、圧倒される上に、せりふの応酬、160分にもわたる重厚な長尺ドラマに必死でついていったというのが正直な感想です。
しかも、ミキータ・ミハルコフ監督は短いカットとまるでワンシーンワンカットのような長廻し、さらにはフラッシュバックの多用、と映像技術のすべてを投入してくるから、映画慣れしていない人にとってはかなりの重労働であったかもしれません。

チェチェンという日本人にはなじみの薄い紛争地帯での悲劇やロシアの現状、政治的な種々の問題、と、アメリカ社会に毒されている日本国では非常に把握しにくい背景ゆえに余計にしんどいのです。

とはいえ、作品の完成度はさすがで、冒頭ののどかなようなチェチェンの田舎町で育った少年の夢のシーンから一気に現実、現代に引き戻すショッキングなつかみのシーン。
それに続く陪審員たちの論戦、繰り返される戦場での犬が人間の手をくわえてくる場面にキラッと光る指輪のひかり、さらに論戦のさなかに飛び込んでくる一羽の小鳥の描き方と、次々と、非凡な映像展開を見せるニキータ・ミハルコフ監督の演出手腕に圧倒されます。

すべてを早く終わらせんとする陪審員たちの身勝手な言動から、ひとつのきっかけで、その真理に迫らんとする論戦に替わるオリジナル脚本をなるべく踏襲し、その一方でラストでオリジナル版とは違った感動を作り出したこのリメイク版は、完全にニキータ・ミハルコフのオリジナル作品と仕上がりましたね。

正直もう一度ゆっくり見ないとこの映画のよさはかけないのですが、さすがに、続けて160分は厳しく、後日、DVDでチェックしてみようかとも思います。
すばらしい映画でした。