くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「羅生門」デジタルリマスター版

羅生門

いわずと知れた黒澤明監督の名作中の名作「羅生門」が、膨大な年月と費用をかけて、デジタルマスターで蘇えりました。
そもそも、オリジナルネガというのは存在していなくて、以前、デジタル処理されたDVDBOXが出ましたが、時折、色合いの違う場面がぽんと飛び出したりと、どこか不自然だったのを覚えています。いちばん状態のよいフィルムの足りないシーンを他のフィルムから継ぎ足してきたそうです。

そんな不自然な状態をすべて色彩調節して、もちろん傷や汚れを取り、音も修正復元され、公開当時の映像が蘇えっています。

いまさらですが、さすがに、すごい迫力で迫ってきますね。
クローズアップの多用、木漏れ日の背景の美しさ、汗がほとばしってくるような迫力、黒澤明お得意の超望遠によるスピード感あふれるシーン。計算されつくされた構図と、音のコラボレーション。などなど、完成されつくされた黒澤芸術のすべてが注ぎ込まれていました。本当にすごいですね。

黒澤明というと、娯楽時代劇の巨匠のように言われていますが、それはあくまで黒澤明監督の手腕が発揮されている一面でしかありません。
抜群のリズム感で見せるエンターテインメントは、芸術的にもすばらしいリズムをかなで、それが一方で、娯楽時代劇に、一方で人間ドラマに、一方で社会ドラマに、そして、この「羅生門」のような芸術作品にも表れてくるのです。

DVDで見直したときに気がつかなかった、木漏れ日の地面の美しさと、木々の間から見え隠れする主人公たちの迫真の演技が、重々しいミステリーを豊かな映像芸術に完成させています。
しかも、声がかなり鮮明になっていて、ささやくような早口のせりふもほとんど問題なく伝わってきます。

それにしても人間の記憶というのは頼りないものです、いつのまにかラストで赤ん坊を抱いて去るのは千秋実の坊さんだと思っていたのですが、志村喬のきこりでした。これほど憧憬の深い作品でもこんな勘違いの記憶で覚えているのですから、この「羅生門」の登場人物たちの証言の食い違いは最もかもしれませんね。

いやぁ、いい映画をもう一度見れて幸せです