くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「誰も守ってくれない」

誰も守ってくれない

ものすごい傑作を見ました。
冒頭、映画が始まってから、座りなおす余裕もないほど画面に引き込まれたままじっと凝視してしまいました。

映画が始まると、静かな画面、スローモーションと無音で一人の少女が学校の校庭で体育の時間でしょうか、バレーボールをしている姿が映し出されます。そして背後に流れるこの映画のテーマ曲、どこか賛美歌を思わせるような美しい歌声とメロディです。
そんな静かな画面と交錯して、ある家に刑事が踏み込んでいく姿がかぶさってきます。逮捕令状を掲げ、無遠慮に家に上がっていく刑事たち。すでに物語のあらすじを知る私たちは、ここが未成年ながら少女を殺害した犯人の少年の家であることを察知します。

この二つのシーンがぶつかり合うように交互に流れ、静かな音楽と矛盾して、そのままこの作品の世界に引き込まれてしまう。

逮捕、少女の帰宅、母親の放心した姿、家の応接で家族に今後の行動を説明する場面、そして家の前の野次馬、さらに一人の刑事とその相棒に少女の保護を依頼する上司の姿から、保護へ向かう刑事たち・・と、このあたりまでが一気に展開するので、もう、息つく暇もなく本筋まで一気にのめりこんでしまうのです。

その後の流れも、周りの人間のドラマ、この刑事の過去の出来事、言葉やネットの暴徒となっていく野次馬たちの人間とは思えない行動、少女の周りの親しい人たちが敵に変わって行く悲劇と物語りは進むものの、単なる被害者の家族とその周りの人たちの状況をありきたりに描くのではなく、せりふの一つ一つに、別の何かを訴えかけてくるこの脚本がすばらしいですね。

確かに、加害者に対する世間の見方は冷たい、一方で、壊れていくのは被害者だけでなく加害者もであること、両方を守るということの本当の意味をしっかりと考えさせてくる深いテーマが、この作品の本当の見所なのです。
ラストシーンは、よくあるようなラストのようですが、そこに一筋の光がさっととおったような感動を覚えるのはなぜなんでしょうか?

さて、ストーリー展開と脚本のすばらしさももちろんなのですが、君塚良一監督の演出にも注目したいです。
冒頭のスローモーションも見事なのですが、手持ちカメラのような、それでいてぶれすぎることもない程度のリアルなカメラワークで見せる会話シーンのすごさ、さらに、クローズアップ以上に目や口元のアップまで迫っていくぶつけてくる迫力。
やわらかさ、静かさと、激しさ、音のある画面と、まるで、生き物のようにスクリーン演出をしてくる君塚監督の演出に拍手です。
おそらく、サイレントでも十分に見せてくれるであろうほどの完成度の高い画面作り、もう非の打ち所無し。

こんな重いテーマであるにもかかわらず、もう一度見たくなるほど、この作品はすばらしかったです。