くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「モンパルナスの灯」「ぼんち」

モンパルナスの灯

モンパルナスの灯
ジェラール・フィリップ特集上映の一本、しかも長年みたいと思っていた作品でもあります。
天才的な画家モディリアーニの半生を描いた作品ですが、なんと言っても共演のアヌーク・エーメが抜群に美しい。透き通るような美女とはこのことを言うのでしょうか?かつてヴィヴィアン・リーをはじめてみたときに思った感覚以来の衝撃でした。

生前はほとんどその絵が評価されず、死後ようやくその芸術性が高く評価され、世界的な画家という名声を手に入れますが、生前はアルコール漬けでぼろぼろになる中で絵を描いていたのが事実です。ただ、二枚目だったようで女性にもて、そのために食いつなげたという説もあります。

誰からも自分の才能を正当に評価されず、向かいに住むただ一人の理解者スボロウスキー(ジェラール・セティ)と酒場の給仕ベアトリス(リリー・バルマー)が彼の才能を信じていました。しかし絵画学校で一人の女性ジャンヌ(アヌーク・エーメ)に出会います。人目でお互いが魅かれ、やがて二人で住む決意をするもののジャンヌの父の反対で会うことを許されず再び酒におぼれるモディリアーニ

すっきりしたプレイボーイのモディリアーニと恋に苦しむ彼、さらに次第に酒におぼれる中で体をぼろぼろにしていく姿をジェラール・フィリップは鬼気迫る演技で演じていきます。このあたり、ただの二枚目俳優ではないと納得しますね。
監督のジャック・ベッケルの演出も常にじっとモディリアーニを見据えるカメラアングルで、細かな表情を画面に映し出すことで彼の心の状態をスクリーンに表現しようとするので、次第に画面に食い入ってしまう。

モンパルナスの町の風景、南フランスニースの穏やかな風景が、主人公モディリアーニの苦悩を逆なでするように効果的に捕らえられています。またジャンヌに一緒に住むことを了解され子供のようにはしゃぐ姿から、自分の真価をわかっていないアメリカの金持ちの前でゴッホの名言を語りながら寂しい表情を見せたりと追い詰められていく様が実に巧妙な展開で語られていきます。

クライマックス、自分のデッサンを酒場に売りに回る姿、それをじっと見つめる画商のモレロ(リノ・ヴァンチュラ)、そして夢遊病者のように町に出てそこで倒れてしまうモディリアーニを病院へ連れて行き、死を確認したうえで、それを隠して彼の家へ行きジャンヌからあらん限りの絵を手に入れる。背後に流れるパイプオルガンの音楽が最高潮になり、狂ったように絵を手に入れていくモレロのアップで映画は終わる。

まさに、エンディングする場所がいかに難しいかを証明してくれるラストシーンですね。昨日の「薄桜記」のラストといい、エンディングのタイミングを間違えると映画は名作から凡作に変わるものだとつくづく思いました。
すばらしい映画です。見てよかった。


もう一本が市川崑監督の「ぼんち」、ご存知山崎豊子原作の映画化である。
先日見直した「炎上」同様、市川監督ならではの映像美の世界が見事でした。

群衆の顔のアップが二度、三度と繰り返されたり、祭りのにぎやかさの売り物が画面いっぱいに広がったり、あるいは競馬場で群衆の中真っ赤なコートを羽織った比佐子(越路吹雪)が走り去ったり、また憲兵に連れられた喜久治(市川雷蔵)を引き取りに行った取引先の社長と交番から出る場面、二人がこちらに歩いてくる後ろに交番がずんずんと異常なくらい遠くまで消えていくシーンなど、三隅研次監督の様式美による映像美とはまた違った市川崑芸術が堪能できます。

物語は船場の旧商家を舞台に古いしきたりを背景にして、女遊びにくれながらも根は優しい主人公喜久治(市川雷蔵)と周りの妾や、母、祖母などの女たちの様子が描かれていきます。そんな様子をまず冒頭、中村鴈治郎ふんする噺家が、すでに商売もなくし、息子と暮らす喜久治の家を訪ねるところから物語が始まります。そして回想のように自分が歩んできた人生を語り始めます。
飄々とした主人公を演じる市川雷蔵がまたなんとも見事で、時代劇、現代劇と演じ分けられる彼の才能に感心してしまいます。

女遊びにくれる日々の一方で、したたかな養子の父の姿、さらには子供を生むためだけにとついで来たような最初の妻弘子(中村玉緒)、口では適当に誉めそやしながらもしたたかに女として生きていかんとするめかけ達の姿を描き、ものの見事なドラマとなって展開していくさまは見事というほかありません。そして再び、冒頭の家のシーンに戻り仏壇に入っているのが、かつてかかわってきた女たちの位牌であるという小粋な落ち、そして格子戸を抜けて消えていく主人公の姿の後のエンディングはまったくため息が出てしまいますね。

一見、淡々とした平凡なドラマながら、日中戦争による不況や大阪空襲などの時代背景も巧に織り込んで、時としてウィットに富んだコミカルなシーンも盛り込み、しかも躍動的とも言える市川崑監督ならではの凝った映像作りの繰り返しは、一筋縄でいかない映像世界を作り出していくのです。
先日の「炎上」とはまた違った魅力的な市川映画をまた堪能いたしました。さすが、いい映画ですね