くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「誰がため」

誰がため

第一印象、非常に美しい。画面のそれぞれの配置やカメラアングルがため息が出るほど洗練された映像なのである。デンマークのもともとの景色ゆえなのか、監督オーレ・クリスチャン・マセンの意図的な演出の手腕なのか、目を見張るほどに美しい。

一方で描かれる物語は第二次大戦中、デンマークに侵攻してきたナチスに対し、地下組織の一員として抵抗する二人の若者フラメン(トゥーレ・リントハート)とシトロン(マッツ・ミケルセン)の壮絶なしかも苦悩に満ちた物語なのだから、その対称的な映像表現が見事というほかありません。

出だし、霧に煙る湿原に生える巨大な木の遠景からはじまる。このシーンだけでもとても戦争映画とは思えない導入部である。さらに、その後に続く主人公たちの暗殺シーンについても、美しい真っ赤な車を画面の中央に俯瞰で配置し、ターゲットに向かう姿を描くという映像の懲りようもすばらしい。

作品全編にこの車の色彩が非常に美しくポイントになって登場します。冒頭の真っ赤な車、さらにメタリックなブラックの車に変わったかと思えば鮮やかなブルーの車が登場する。そしてこうした車の背景に美しいデンマークの町並みやらが広がる。さらに真上から撮ったアングルに始まり地面すれすれから石畳を這うように捕らえるカット、あるいはカフェで、テーブルの位置をたくみにモダンアートのごとく配置した構図も美しい。

そんな、映像美に満たされた画面の中で主人公たちは自分の信念のためにひたすら上層部の命令を信じて、ナチスに協力するデンマーク人たちを殺戮していく。
しかし、やがて、彼らの行動が注目され始めるころ、ドイツの将校を暗殺せよという命令が来るあたりから物語が大きく転換する。仲間内の裏切り疑惑、恋人への想い、家族との別離など、主人公たちの心の変化、行動への疑問、などが複雑に絡み合い、やがてナチスからも懸賞金をかけられるまでになって、二人の運命がしだいに狂い始める。
いったい今まで信じてきたものはなんだったのか、自分たちは誰のために、何のために人殺しをしてきたのか。そんな苦悩の中、やがて隔絶された二人は究極の目的を自分たちで決定するのである。それはゲジュタポの指導者ホフマン暗殺。しかしこの決定は二人を人生の終焉へ導いてしまう。

前述した美しい画面で展開する孤独な二人の苦悩のラストは、戦争中の悲劇とはいえ胸を打たざるを得ない感動を呼び起こしてくれました。一級品の作品ですね。まぁ、テーマがしんどいのでじっくり見ないと大変というのは確かですが、よかったです。