くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ザ・ウォーカー」

ザ・ウォーカー

原題は「THE BOOK OF ELI」(イーライの本)というので、わざわざ「ザ・ウォーカー」に変えた意味もわからなくはない。イーライというのはこの映画の主人公なのです。

まぶしい光が画面を覆い、とある森に死の灰のごとく塵のようなものが津々と降っている景色が現れてくる。カメラがゆっくりと左から右へ移動していくと次第に一つの死体が見えてくる。その死体にどこからともなく一匹の猫のようなやせた動物が近づく。さらにカメラがパンすると、それをねらって、足に弓を構えた一人の男。そして放たれる矢はその猫へ。

この矢を放った男が主人公であるイーライ(ウォーカー)である。
こうして始まるこの作品、全編、デジタル処理したモノトーンの映像で展開していく。かなりハードなSFを想像させるので、ちょっと構えて画面に見入ってしまうのですが、この男、やたら強い。途中で出会った盗賊に対し、一気に護身用の短刀で倒してしまう。山刀のようなやや長手の短刀をまるで日本刀のように持って一瞬で敵を倒すシーンは見事。

この男、世界に一冊残されたある本を持って西へ西へと歩く旅を続けている。そしてたどり着いたとある町。一見西部劇のようだが、どちらかというと時代劇の宿場町のようである。砂煙が舞い、ごろつきどもがうようよいる。そこで、ゲイリー・オールドマン扮するカーネギーと出会う。このカーネギー、イーライの持っている本を探して、ごろつきどもを飼い慣らしている。同居する目の見えない女(なんとジェニファー・ビールズ)とその娘ソラーラとくらしている。

このあたりどこか黒澤明の「用心棒」を思わせる。
ここで繰り広げられる銃撃戦でも、このイーライはやたら強い。このアクションが凡々たるハードな物語にスパイスになって、飽きさせないおもしろさもある。

やがて、持っている本が聖書であることが薄々わかってくると、ちょっとありきたりかな?と思えなくもないが、そんな欠点はともかく、イーライとソラーラとの旅となり、途中で人肉を食べて生活する老夫婦の家に立ち寄りそこで追ってきたカーネギーとの銃撃戦がクライマックスになる。ここでの銃撃戦がなかなかのカメラワークで見せてくれる。それもほんの短時間の勝負なので、よけいに迫力があるといえる。

ところが、カーネギーが手に入れたイーライの本は点字でかかれた聖書でつまりイーライは盲目だったという事実が明らかになり、一方のカーネギーも読むに読まれずいらだちを高めていく。一方、イーライの目的地はアルカトラズで、そこで自らの頭に記憶した聖書を印刷して使命を終えるラストシーンはちょっと宗教じみている。

その後、新たなるウォーカーとしてソラーラがイーライの戦士の姿を引き継いで再び旅に出るラストはちょっとシュールなエンディングである。
ハードSFを意識した哲学的なアクションドラマであり、ラストの点字の聖書という急展開でもう一度ストーリーを思い起こしてみると新たな解釈が生まれてきてなかなか充実感のある作品でした。