くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「フェアウェル さらば、哀しみのスパイ」

フェアウェル

1981年、ソ連を崩壊の危機に導くきっかけとなったスパイ事件が起こる。その名は「フェアウェル事件」。そのスパイ事件を元に、その事件に関わったソビエトKGB高官グリゴリエフ大佐と彼の情報をフランスへ受け渡す役割を担ったソ連在住のフランスの技師ピエールの物語が描かれていきます。流麗なカメラワークとカット転換の妙味、さらに美しい映像表現を駆使し、テンポの良いストーリー展開の中でふたりの家族のドラマにもしっかりと脚光を当てたクリスチャン・カリオン監督の演出に引き込まれてしまいました。

映画が始まると真っ赤な画面で、東西の宇宙開発の様子のドキュメントフィルムが映されます。次第にアメリカ側の進歩が目の当たりにされていく映像が映され、画面は雪の平原へ。ダーンという銃声と共に、この物語が実話によるものであることのテロップが映されます。

画面が変わると、ソビエト在住のフランスの技師ピエールの家族、これから娘の一輪車のパフォーマンスの舞台を見に行くべく支度をしています。そして娘の演技が一段落したところで、ピエールは外へ出ます。自分の車に乗り込むと突然後ろからグリゴリエフ大佐が現れ、ピエールの上司であるジャックから代理で受け取りに来たピエールに不満を言いながらも重要書類を渡します。

グリゴリエフ大佐はソ連の未来を憂い、せめて息子の時代にはよりよい国になってほしいと、大成の変換を希望して重要文書を西側に流すことにしたのです。

ピエールとグリゴリエフ大佐(フェアウェル)は重要書類を受け渡すうちに次第に親密になっていき、受け渡しの仕事以上の感情が芽生えていきます。
そんな危険な仕事に手を染め始めたピエールの妻はそんな夫に反対師、家族を守るためにやめてほしいと懇願します。一方グリゴリエフ大佐の家族も妻の不倫、自らの浮気、思春期の息子との意志の疎通の難しさなどで心を痛める毎日も描かれます。

アメリカ、フランス政府も最初は疑っていたものフェアウェルの情報の信憑性を信じ始め、次第にエスカレートしていきます。そして、とうとうフェアウェルはソ連の最重要機密である「Xリスト」を手に入れます。そしてこれが最後と、ピエールに託します。

しかし、その後、グリゴリエフ大佐はKGBに拘束され、ピエールにも次第にKGBの追っ手が迫り始めます。しかし、ピエールは間一髪でフィンランドへの逃避行に成功します。このシーンは非常にスリリングで手に汗握るものでした。


なぜ、グリゴリエフ大佐がKGBに拘束されたのか。実は、西側はさらにその上をいく陰謀を画策していたのです。

KGB幹部でグリゴリエフ大佐の妻の不倫相手でもある男は実は以前から西側へ情報を流していて、ソ連が得た西側情報を機密にすることを条件に、グリゴリエフ大佐をKGBに引き渡す取引を西側幹部が行ったことが明らかになります。
なんとかピエールは大佐の救出を政府側に訴えますが、政府が取った取引を覆すことはできませんでした。

クライマックス、いままで疎遠になりかけていたグリゴリエフ大佐の息子が大佐に面会し、隔てられた壁をくぐって抱き合うショットは涙が出そうになりました。
結局、ピエールはニューヨークへ転属になることになり、グリゴリエフ大佐は雪の中で銃殺されます(冒頭のシーン)

カメラが廊下を進むと突然KGBの資料室の廊下にカットで切り替わったり、ぐーっと引くと夜のソ連の景色が浮かび上がったりと独創性のある秀逸なカメラワークが次々と展開され、妻や息子、子供たちなどそれぞれの家族のドラマが丁寧に描かれる一方でスリリングに展開する機密文書引き渡しの展開、さらにソ連の緊迫した日常の様子も緻密に描かれ、非常に無駄のない脚本が見事でした。充実した秀作だったと思います、