くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「あの胸にもういちど」

あの胸にもういちど

カメラマンとしても一流のジャック・カーディフが描いた名作。完全版ということなので、公開当時はちょっとエロティックなシーンなどがカットされていたのでしょう。とはいっても、今回の完全版、かなりフィルムも音声も痛んでいました。

この映画の名場面といえば、全裸のレベッカ(マリアンヌ・フェイスフル)が下着をつけずにセクシーな皮のライダースーツに身を包み大型バイクにまたがるのがみどころ。長い髪をなびかせ、胸元の真っ赤なジーパータックとベルトの円形の赤い装飾が真っ黒な皮のスーツをいっそう引き立たせ、バイクが疾走するシーンできらきら光るショットが何ともセクシーで素敵です。

映画が始まると軽快な音楽とハイウェイを疾走するのをカメラの一人称でとらえタイトルがこえもまた流れるように写されていきます。

タイトルが終わると片田舎の霧にむせぶ一軒の家。その寝室へ画面が移るといきなりシュールなシーンで主人公レベッカが見ている夢のシーンが続く。赤や黄色などのサイケでりっくなしょりが施されたシーン。サーカスで恋人のダニエル(アラン・ドロン)にむち打たれながら皮のスーツがかがされていくショットなどが写された後、目覚めた彼女は傍らに眠る夫レイモンにそっとキスをし、ベッドを抜け出して全裸に皮のスーツを着込み大型バイクに乗ります。愛するダニエルの元へ向かうために。

こうして、物語はダニエルの元に走るレベッカの姿を写しながらフラッシュバックや回想シーンでダニエルとの出会い、レイモンとの結婚、ダニエルとの不倫関係が描かれていく。時にシュールでサイケデリックな色彩で画面を覆うかと思うと、道ばたの花にショットが映るという非常にテクニカルなシーンがストーリーを語っていきます。

ドイツ国境を越え、刻一刻と目的地が近づく。乗っているバイクは結婚祝いにダニエルにもらったものだ。そして、雪山での初めての出会い、そして抱擁、実家の本屋での再会。どこかサディスティックで危険なムードを持つ大学教授のダニエルに人目で引かれながら、地元の教師をするまじめなレイモンと結婚したレベッカ。そうした過去がバイクを走らせるスピード感を交えて語られていく展開は実におもしろいし、飽きさせないオリジナリティがあります。

時にマゾのごとく、男たちの視線に欲情するレベッカのシーンも交え、全編にほのかなエロスと危険な感情が見え隠れする演出が何とも秀逸です。カメラマンであるジャック・カーディフならではの力量かと思わせます。

そして、後数キロに迫ったところで、どんどんと気持ちが高揚し、顔の表情、身のこなし、バイクのスピード感、と細かいカットが繰り返された後、突然目の前のトラックによけきれず突っ込んでそのまま投げ出され車にたたきつけられ死んでしまう。結局、ダニエルは回想の中でしか登場せず、そしてレベッカももう一度抱かれたいという希望も果たせずエンディングとなります。

果たして、この物語はレベッカの妄想だったのかと思わせる不思議な感覚を覚えるラストシーン。なかなかの名作でした。