くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「レベッカ」

レベッカ

ヒッチコックが大プロデューサーデヴィッド・O・セルズニックに呼ばれて制作した大作。しかもアカデミー賞に輝いた名作とされているが、私はヒッチコック映画の中では一番ヒッチコック的ではないし、一番嫌いな作品である。

理由は、格調が高すぎるのです。ヒッチコックはB級映画の巨匠であり、もちろん演出の手腕もその独創性も他に類を見ない天才だと思いますが、この「レベッカ」にいたっては完全に芸術映画として完成されている。当然、ヒッチコックの才能が花開いて、映画は名作として完成されているが、いかんせん毒がなさすぎる。

もちろん、映像はすばらしい。影をふんだんに使った不気味なマンダレーの屋敷のショットや、召使いたちをとらえた不気味な斜めのカットなどこれこそヒッチコックと呼べるし、撮影を担当したカメラマンもすごい。そして、クライマックス、誰もがはらはらする謎が一人の医師によってひっくり返る真相が暴かれるにいたる展開こそヒッチコックサスペンスの醍醐味である。
しかし、全体の映像が実に美しすぎるために、ゾクゾクする恐怖が忍び寄ってくるおもしろさがないのです。

すべての謎が明らかになり、マンダレーの屋敷が燃えて崩れ落ちる壮大なエンディングに至っては完全に名作の貫禄を持ってしまう。だから、私はこの映画はヒッチコック的ではないと思うのです。

とはいえ、畳みかけるような導入部と毒の効いたユーモアで一気に本編へ引き込むストーリーテリングのうまさは絶品。すーとカメラが引いてマリアン(ジョーン・フォンテーン)が画面の中央にポツンと残し、不安な心をさりげなく漂わせる冒頭のホテルのシーンは息をのみますね。

そして、マンダレーへ来た主人公。
どこかしこにRの文字の刺繍を見つけ不安になるくだり。ジュディス・アンダーソン扮するダンヴァース夫人の不気味さ、回りに近づいてくるすべての人がマリアンに恐怖を与えてくるというヒッチコックならではの不気味な演出は見事ですが、どうもすっきりと洗練されすぎているのですね。

ゴシックホラーの醍醐味を十分味わえ、至る所にヒッチコックサスペンスがちりばめられているのですが、全体に非常にまとまっていて完成されすぎた為の失敗作と呼べる一本かもしれません。アカデミー賞作品賞は取っているけれど監督賞を逃しているのがなんとも意味ありげですね