くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アジョシ」「探偵はBARにいる」

アジョシ

「アジョシ」
「冬の小鳥」で注目されたキム・セロンとウォンビン主演の注目の韓国映画です。
とにかくおもしろかった。映画が始まってから感動のラストシーンまで身じろぎもせずに画面に食い入ってしまいました。なんといっても、脚本が抜群にいい。丁寧に練り込まれた伏線が最後の最後まで生かされている。そして、その脚本を元にハイスピードなカットの連続と登場人物に密着するようなカメラアングルが徹底された演出、そして次々と軽快に進むストーリー展開の鮮やかさ、人物関係の的確な描写による物語の構成のすばらしさに全く最後まで飽きさせません。

映画が始まるとなにやら犯罪の張り込みを二ヶ月もしているという刑事のぼやきから始まります。そして、一気になにやら取引の場所であるらしい怪しいバーで女が踊っている。太った男が麻薬らしい鞄を一人の男に預けその男が楽屋へ行って着替えていると、ダンサーが陰から現れスタンガンで気絶させて鞄の中から麻薬を盗み消えてしまう。

横取りされたと知らず刑事は踏み込み、取引をしたらしい男たちを逮捕するも麻薬の現物が見つからない。

場面は変わる一人の男がアパートに帰ってくると物陰に一人の少女。この男テシク(ウォンビン)はこのアパートの一階で質屋をしている。この娘ソミ(キム・セロン)は麻薬中毒の母親と二人暮らしでいつもひとりぼっちなので隣のテシクになついていつも遊びに行っている。テシクの部屋にはサボテンがおいてあったりとどこか「レオン」を思わせるがそれはほんのわずかな部分だけ。

どうやら冒頭で麻薬を横取りした女がソミの母親らしく、やくざ組織のマンソク兄弟がその母親とソミを捕まえる。そして、質屋にも疑いをかけ母親が預けたかばんから麻薬を取り戻しテシクを脅すが、鮮やかにやり返されてしまう。このショットだけでこのテシクがただ者ではないとわかる。このシーンが実に鮮やかでこれこそアクション映画の常道ともいえる導入部にうなってしまいます。

マンソク兄弟にソミらを引き換えに麻薬を運ぶことを命じられテシクはオ社長のところへ踏み込むが、それはわなでマンソク兄弟がライバルの麻薬組織を警察に捕まえさせようと画策したものだった。そのときにテシクが使った車のトランクには臓器を抜き取られたソミの母親の死体が。そして、警察に捕まったものの難なく脱出し、とらわれたソミを救うためにテシクが封印していた特殊部隊員としての技を駆使していくところが物語の本編である。

一気にアクションシーンの連続になっていくかと思いきや、さりげなくこのテシクの過去や警察がテシクの正体を暴いていくショットも絶妙なタイミングで挿入していく。さらに臓器を抜かれた母親の死体を出すことでソミの身に更なる危機が迫っているというタイムリミットのサスペンスも生まれる。

ただのソミ奪還の物語のみでなく、ソミ等を拉致したマンソク兄弟が実は麻薬の運び屋に子供を使った上、役に立たなくなったら角膜などを売る臓器売買にも手を染めていることでどんどん物語は深みを帯びてくるのである。
さらに、このマンソク兄弟の用心棒のような部下で三日月のようなナイフを使うラムという傭兵あがりのような格闘家のキャラクターも次第に生きてくるところが実に見事である。ラムとテシクが初めて死闘したときにラムは額に傷を負う。そのときソミに絆創膏を張ってもらうというエピソードもあるが、ここで同じ傭兵の血を感じたラムはテシクにどこか九通するものを覚えるいきさつも挿入され、これがラストで生きてくる。

ソミの行方に迫るテシクはマンソク兄弟の弟にせまり、一方で弟と引き換えにソミを渡せと連絡を入れる。しかし、すでにソミの身には書く核をとるための手術の手が迫っている。
そして、いよいよクライマックス、マンソク兄弟の弟を殺した上で、マンソク兄弟の兄のアジトにやってきたテシク、兄からソミの眼球らしいものが入った入れ物を見せつけられ、ソミは死んだと告げられる。狂ったようにテシクは一瞬で17人の部下を倒し、ラムとの一騎打ちでもラムを倒し兄にせまる。

そして車で逃げようとしている兄を撃ち殺し、すべてを失ったテシクは自殺しようとこめかみにピストルを。そこへ、ソミの声が。実はソミは寸前でラムに助けられ、眼球をくり貫かれたのは執刀する医師であったとエピローグでわかるのである。どこか惹かれるものを感じたラムがソミを寸前で助けたという展開が暗に語られる。実に絶妙な脚本である。

さらに、連行されるテシクとソミ。テシクは寄ってほしいところがあるとソミがいつも万引きをするが子供が大好きな店主のいる駄菓子屋へ。そこで大量にお菓子を買ってやり、テシクとソミはしっかりと抱き合ってエンドタイトルとなる。

ラムにソミが張る絆創膏、ソミのあどけないネイルアートのいたずら、前半で登場する駄菓子屋での万引き、そして三日月男とテシクの心の交流、さらに麻薬取引から臓器売買まで墜ちていくというストーリー展開。ほんのわずかに登場するキャラクターたちが実に生き生きと物語を引き立て、そこで展開する胸のすくようなテシクのアクションがすばらしい。そして、それを影で引き立てるのがソミの存在。韓国映画らしいグロテスクな殺戮シーンはかなり押さえられていて、非常に良質のアクションドラマに仕上がっています。ラストシーンに泣かない人はおそらくいないのではないでしょうか、見事な一本をみました。

「探偵はBARにいる」
そつなく仕上げたおしゃれなサスペンスドラマという感じの作品でした。決して駄作ではありませんが淡々と進む物語にちょっと個性が足りない映像演出が物足りないというところでしょうか。ただこの作品は完全にフィクションというか作り物の不思議な世界なのです。この手のドラマにつき物の警察という存在がほとんど見えてこない。殺人が堂々と行われるのに警察が調べにくるショットなどは皆無に近い。この非現実性が独特のムードを生み出していることは確かですね。

かつて松田優作が存命の頃村川透監督と連発した無国籍ドラマや映画のシリーズを思い出しましたが、さすがに大泉洋には松田優作ほどのカリスマ性があるわけでもなく、必死で演じるちょっとおっちょこちょいで、それでいてそれなりに腕力もある主人公の探偵の姿の熱演は評価してもいいのではないでしょうか。

いずれにせよ、こじんまりとまとまりすぎた完成度が今一つ頼りなくて、こういうモダンでおしゃれな原作なのだから思い切った画面作りやストーリー構成にチャレンジした作品を見たかったですね。

物語の舞台は北海道札幌、すすき野、必死で逃げている一人の男俺(大泉洋)がやくざ風の数人に袋叩きにあう。そこへ駆けつける相棒の高田(松田龍平)。とたんに、反撃にでて、奪い返した物を依頼人にバーで渡すところから映画は始まります。ここまででこの個性的な主人公俺(探偵)と相棒の高田の人となりを表現し一気に本編へ引き込むべきなのですがいまひとつ迫力に欠けるのですよね。

行きつけのバーで依頼の電話を待つという風変わりな主人公の探偵に、ある日近藤京子なる女性からある依頼がくる。そしてこの主人公は妙な事件に関わっていくという展開です。

冒頭で、小雪扮する沙織と西田敏行扮する霧島とのパーティの席、そしてそれに続く霧島の殺害されるシーンでこの物語のお膳立てが完成。探偵にかかってきた依頼を少しづつこなすうちにその真相へ近づいていくという構成はおそらく原作通りなのでしょうが、冒頭でも書いた不思議なムード展開の中でもう少し工夫のある画面がほしい気もします。

やくざものの実行部隊の首領である高嶋政伸扮する加藤の迫力も今一つカリスマ性にかけるし、この辺も作品全体にメリハリが生まれなかった原因でしょうね。

とはいえ、特にだれるわけもなく平坦に展開するストーリーの中でだんだんとことの真相、犯人の姿、そして動機が一気にラストシーンで明かされ、途中でだいたいわかったとおり近藤京子の正体は沙織で、霧島もやはりとてもいい人で、復讐のために悪女となって大阪のやくざの親分の息子と結婚、その式場で全員を射殺して自分も自殺して果てる沙織の姿がせつなく終わります。しかしながら感情の盛り上がりがクライマックスに向かうにつれていまひとつ生まれなかったのが残念。

大泉洋の存在感の弱さがこの作品の出来映えを決定づけた気がしなくもありませんが、あれだけがんばっているので許してあげましょう。全体にキャストの迫力不足と演出に対する遠慮がこじんまりしたスケールの小さい作品として完成されてしまったという感想です。でも決してつまらない映画ではありませんでした。