くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「家族X」「カンパニー・メン」

家族X

「家族X」
昨年「川の底からこんにちは」を制作し話題を呼んだぴあフィルムフェスティバル(PFF)スカラシップ作品ということなので見に行きました。

監督は吉田光希。
ドキュメンタリータッチで、ある平凡な家族の主婦の日常をとらえていく物語。これといった劇的な物も、映像にこったテクニックもありません。ただ、主婦、夫、一人息子、それぞれがそれぞれに非常に孤独感を生み出しているのです。その、裏寂しいような現代の家族が映されているのが非常にぞくっとする不安を生み出します。

毎日毎日、洗濯をし、家族の食事を作り、そしてまた次の日を迎える。その繰り返しの中で、夫も息子もそんな妻(母)に何の反応もせず、当然のように接している。自分のペースで自分の生活を営み、作られた食事にも目もくれない日々もある。

夫は会社ではリストラに合おうとしているが家族それぞれに話せないほどにみんなが無関心。フリーターの息子も同様に毎日を過ごす。

そんなある日、妻は食事を作ることのむなしさからか、スーパーで出来合いの弁当をかってやけ食い。やがて、そんな毎日が日常になり、冷蔵庫には腐った野菜が残されるようになる。ところがある日、息子がいつもより早く帰り、母は食事を作ろうとするが、冷蔵庫になにもない。

翌日、再び食事を作りかけた妻は食卓に並べた食事をぶちこわし、台所で狂ったようになってそのまま家を飛び出す。

夜、夫が帰ってきて、室内の様子に異変を感じ、車で夜の町へ妻を探しに行く。息子もその後帰ってきて、ただならぬ様子に自転車で夜の町へ。

ファミレスで寝入っている妻を夫が見つける。一晩探して密からなかった息子は自転車でとぼとぼと帰路につく。そこへスローモーションで妻を乗せた夫(父)の車が追いついてきて映画は終わります。

かすかな希望を見せたエンディングはまぁ、救いでしょうか。それにしても、こういう閉じこもった映画しか作れない今の日本の映画界の若手の意識はどうなっているのかなと思いますね。

「カンパニー・メン」
非常にスピーディーで無駄を省いたハイテンポなシーン展開で最後まで全く間延びしない上に、物語に引き込まれてしまうなかなかの秀作でした。

いきなり2008年のアメリカの金融危機のニュースが流れるところから映画が始まります。アップテンポの音楽と短いカットで一気に本編へ入っていく導入部が実に鮮やかなファーストシーン。

一人のできるビジネスマンという風体のボビーが一流企業のGTXに出社してくるところから物語の本編が始まる。そこへ人事部長のサリーからの呼び出し、いってみると解雇の通知。37歳働き盛りで仕事も出来、出世コースまっしぐらの彼は寝耳に水。あてにする役員のジーンはシカゴ出張中で、どうしようもなくそのまま受け入れることになる。

シカゴから戻ったジーンは勝手な人為に立腹し、一緒に今の会社を起業した社長のサリンジャーに詰め寄りますが、どうしようもなしと返答。ジーンが担当する造船部門は不採算ということで、大量のリストラ。物語はこのボビーが再就職に奮闘する展開を前半部分で追っていきます。

過去の地位と名誉から抜けられないボビーは予想通りの展開でどんどん落ち込んでいく。しかし、真っ先に適応した妻の機転で少しずつ乗り越え、妻の兄のジャック大工の仕事を手伝うようになる。このジャックもさり気名ボビーを応援する姿が実に好感。

そんなとき、さらなるリストラで、創業時から30年会社を支えてきたフィルも解雇、さらにジーンも解雇されてしまう。

家族の理解が得られないフィルは次第に追いつめられ、とうとうガレージで自殺してしまう。片腕として必死で貴社を築いた同僚のジーンはやり場もなくサリンジャーに会いに行くが、会社は合併されることになると告げられる。

フィルの葬儀の席でジーンはボビーにかつてのGTXの創業時の工場を見せ、今は無惨に朽ち果てた様子を語りながら、働くことの本来の意味を語る。

まもなくジーンはGTXの持ち株に利益で新しい会社を立ち上げることを決意、トムを誘い、リストラされたベテラン社員を引き込んで新しい海運会社を立ち上げる。そして、颯爽とそのオフィスに入ってくるボビーの姿と、それに答える社員たちの晴れやかな顔つきを捉えて映画は終わります。

会社を立ち上げた際はまず働くことを第一にして、日々ものを作ることの幸福に酔っていたのに、いつの間にか貸借対象表や勝ち取った地位を守ることにだけ情熱を持ち、それを失うことへの不安の日々を抱くようになった今の自分をもう一度振り返るべきだと悟ったジーンのボビーへの言葉が非常に印象的。

いつの間にか贅沢な暮らしに慣れ、仕事の意味を見失っている主人公たちの再起をかけた希望の物語として、爽快な思いでエンディングを見つめることができました。いい映画だったと思います。