くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「源氏物語 千年の謎」 

源氏物語

非常に評判が悪いので、いかほどのものかと思って見に行ったが、結構楽しんでしまいました。美術セットや衣装デザインが今一つ色彩のセンスが物足りなく平凡で薄っぺらく感じるとか、せりふが余りにも現代的に聞こえるとか、歩き方の所作や振る舞いが雅やかさに欠けるとかそんなことを言ったところでどうしようもないです。

今、そろえられるスタッフとキャストで宮廷絵巻を作る限界がこのレベルだろうと思うし、スタッフキャストともども一生懸命演じて、作ろうとしているひたむきさは感じられるのです。だから見ていて好感だったのです。

「大奥」の時も大勢の批判に逆らってべたほめした覚えがありますが、今回もこんなひねくれた感想を書いてみたいと思います。

大好きな田中麗奈さんがなかなか個性的な生き霊の役柄で活躍してくれたし、これまた大好きな連仏美沙子さんもちらりと見せてくれるし、窪塚洋介も例によって不気味な演技を見せてくれた。そんなこんなを今や当代随一の名女優となった中谷美紀が引き締める。そうした意味で平凡な娯楽映画とはいえ、ただのテレビのスペシャルにはならずにふつうの映画に仕上がって映画館に足を運んだ甲斐がある作品になっていてよかったです。

光源氏の光を藤原道長の栄光の光にだぶらせ、紫式部が「源氏物語」を書いている現代と虚構の「源氏物語」の世界を巧みに交錯させながら、主人公光源氏が数々の女性に曳かれながら究極に求めたものが顔され知らない生みの母の姿の中に見る母性であることを、権力の極みを目指す藤原道長の出世欲ともだぶらせる手法は原作の妙味であろう。

さらに、自ら作り出した光源氏に密かに恋いこがれる藤原道長をだぶらせる紫式部の微妙な女心をさすがに中谷美紀は見事に演じきっている。この心の奥底に秘めた思いと激情のままに生き霊さえ生み出してしまう六条御息所田中麗奈)と対比させる構図で物語の中心においた構成は娯楽映画として成功だったと思います。

誰もがオリジナルの「源氏物語」の雅やかな物語が生田斗真扮する光源氏と、対する東野紀之扮する藤原道長のイケメンスターで描ききるだろうと期待した女性ファンにはちょっとはずされた思いがないでもないかもしれないが、女性の視点で見ればそちらしか見えていないのかもしれない。あくまで私の視点は紫式部が絡んでしまうのである。

監督の鶴橋康夫さんは「愛の流刑地」以外テレビドラマ中心で大スクリーンの演出をできるほどの力量があったかどうかはともかく、まぁ無難な娯楽エンターテインメントに仕上がっていたと思います。映画産業全盛期には乱作されたオールスターキャストで大画面を楽しんだ時代の今風の映画でしょう。これも映画を楽しむ一つのおもしろさではないかと応援したい一本でした。