くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「あゝ声なき友」「海軍特別年少兵」

あゝ声なき友

「あゝ声なき友」
渥美清が製作した反戦映画と言うことである。兵隊の手記を元にした原作をもとにオムニバス調の作品で主人公の西山が病気で内地へ送還されるおりに同じ部隊の戦友から預かった遺書を終戦後訪ねて配って回るお話である。

汽車で揺られる主人公西山が列車の中で倒れ、そのまま入院、遺書を預かって終戦後内地に帰ってからの前半部分から中盤にかけて淡々と返却していく姿を描いていき、その中で返却した人々のさまざまなエピソードがつづられていく。そして徐々にそのエピソードに反戦色が強くなってそれぞれのプロットが長くなってくるという構成のうまさはなかなかのものだと思います。

さらに後半へ進むにつれ戦争による様々な悲劇が浮き彫りになって、手紙を届けることに一抹の疑問が西山の胸に浮かび上がらせながら次第に疲労が見えてくる展開になっているところはなかなかの見所である。そして、手紙を渡していく先々でのそのリアクションに微妙な揺れが徐々に大きくなり始めそのまま一気にラストかと思えるところで物語が終盤になって芸者のエピソード、死んだはずの戦友が生きていたエピソードで締めくくるあたりになってちょっとその方向がちぐはぐになってしまったのはやや残念。

原作が様々な手記の羅列だからその順番による矛盾は仕方ないのであるが、ラストに渥美清の一席があって、自分の行動にふと振り返るわびしさを見せる。そして西山が線路の前でストップモーションで終わるエンディングはそれはそれで意味のあるものであると思います。しかし音楽の弱さ。製作当時1972年頃にはやった映画音楽の風潮としてのギターの音色は今一つこの作品には生きていないのが残念。当時のモダンなイメージを意識したのだと思いますが、ちょっと内容にうまくかみ合っていなくて作品全体を薄いものにしてしまったかもしれません。

ただ、今となっては過去であるとはいえ、沖縄返還があった歳で、すでに戦後は終わったと人々が感じた当時はかなりのリアリティのある作品であり、その意味で今なお、残しておくべき一本ではないかとも思えるのです。もちろん、時代は過ぎて、今や戦後どころの話ではないのですが、こういう手記の存在と映像の存在意義は非常に大切だと思います。この作品を見て、戦争の悲劇について考えるひとときを与えるのも我々の義務かもしれませんね。

海軍特別年少兵
この映画はものすごく良かった。本当に傑作と呼べる一本で、なんともいえない感動にさえ包まれてしまいました。

硫黄島が玉砕し、大勢の少年兵が倒れているシーンから映画が始まります。そして、アメリカ兵が少年の一人を起こし、「こんな子供まで・・」というせりふに続いて少年が「私は軍人です」と答えてタイトル。物語は昭和18年、少年たちが海軍士官学校へ入隊するシーンへ続きます。
それぞれの少年をアップで捉え自己紹介しながらその入隊にいたる家族とのシーンなどをフラッシュバックしていく。

中心となる少年たちの教官となる地井武男ふんする工藤上曹が抜群にすばらしい。最初は鬼教官として登場するがその実、実に面倒見が良くて情が深いことがさまざまなシーンで語られ、一方で温厚な教官である吉永中尉がいい人で対立して描かれるものの、終盤に、去っていく工藤が「少年たちの家庭は貧乏そのもので、中尉らのような裕福な家庭育ちでないことを理解してほしい」と告げるシーンで吉永中尉の弱さも演出するシーンが見事。

一見、ありきたりの軍隊学校映画に見えるが、そこかしこに人間ドラマがしっかりと描かれ、主要な少年たちの家庭背景もしっかりと無駄なく、それでいてしつこくなく描かれている。貧乏で夜中に田植えをしないといけないゆおな家庭、姉が娼婦をしながら生活する家庭、父がアカのレッテルを張られている家庭、代々名誉の戦死で立派だといわれている家庭などなど、それぞれが実に見事な感覚と間合いで描かれるのである。そして、その根底に母や父の子供への純粋な愛情がにじみ出た演出がなされている。

そんなドラマの中に工藤上曹と少年たちの心の交流もわざとらしくなく、本当に自然と絆が結ばれる様が描かれる。もちろん吉永中尉らエリート士官のドラマもわずかながら的確に挿入される。

そして、クライマックス、彼らは硫黄島へ送られ、そこで吉永中尉も工藤上曹もそして少年たちも再び集い、玉砕の日を迎える。
最後を決めた日に吉永中尉が命を助けるために4人の少年兵を裂きに別のところに派遣した後、その後を追うと言い出す工藤上曹のせりふもいい。「彼らは子供であるけれども軍人である。たとえアメリカが彼らを大事に扱うとしても彼らは軍人であるべしという行動をとるはずである。そして曹あるように教育したのが私たちだ」と熱弁、自ら彼らの後を追って一緒に死にに行くのである。左半分のクローズアップで地井武男を捉えバックに吉永中尉の姿を捉える今井正得意の構図が抜群の効果を生む。

やがて少年たちも突撃をして果てるし、工藤も死んでしまう。ストップモーションでエンディングとなるが、反戦映画ではあるもののしっかりとした人間ドラマとしての見ごたえもあり見事に描かれている。この絶妙なバランスが本当にうなるほどにすばらしく、地井武男の演技も目を見張るほどにすばらしい。本当にいい映画を観たという感想です。

ただ、残念なことにフィルムが退色していて、せっかくの岡崎宏三さんのカメラが見れなかったのが残念。