くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想[TIME/タイム」「逆転裁判」

タイム

「TIME/タイム」
ファンの多いSF映画「ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督、しかも大好きなアマンダ・セイフライド出演のちょっと期待のSF映画でした。

遺伝子操作で人間の寿命が25歳から進むことがない未来。しかも、金の代わりに時間がその裕福度を測る手段になっている時代の物語である。が、いかんせん、これと言って斬新さのない作品でした。単にお金を時間に置き換えただけの単純なストーリーと物語の行き先が今一つはっきりしないために緊迫感も生み出さない展開がどうもいただけない。

主人公ウィルはスラム街に住む若者。一日の時間を得るためにその日暮らしのごとく生活をしている。ある日、行きつけのバーで100年以上も時間を所有する一人の男ハミルトンと出会う。無造作に時間を浪費する彼に当然のようにギャングが命をねらう。ウィルが彼を助けたことから彼からそのほとんどの時間をもらい彼は自殺してしまう。

その時間を元に裕福層が住むニューシティへ行く。そこで金融界の大富豪フィリップ・ワイスと出会い彼の娘シルビアを巻き込んで逃避行を始める。目的は一部の富裕層が搾取したタイムを庶民に取り戻すべく銀行やローン会社をおそっていくというもの。そして最後にフィリップの金庫から100万年というタイムを盗みスラム街に戻ってくる。彼らを執拗に追うタイムキーパーレオンも最後の最後で自らのミスで時間切れとなり死んでしまい、ウィルたちはさらに庶民にタイムを戻すべく財務局の大銀行へと向かうところでエンディングである。

扱うものが時間なのですが、結局金に置き換えてもなんら問題がない単純な物語がSFという斬新な設定のおもしろさを生み出さない。しかも、迫ってくるタイムリミットのおもしろさも何度も何度も起こるためになれてしまって緊迫感が薄れる。

冒頭のハミルトンの自殺の動機も今一つ訴えかけてくるものがない。ひたすら逃げて時間の金庫を遅い、奪った時間を貧困層に分け与えてのくりかえしにそれほどのスリリングさもないし、今一つ迫ってくるものがないという物足りなさ。「ガタカ」のどこかファンタジックな世界観が今回は生かされなかった気がします。

ただアマンダ・セイフライドのくりくりしたキュートな目が印象的で、タイムキーパーを演じたキリアン・マーフィーが彫りの深い顔立ちが鋭くてしぶい。さらにシルビアの父フィリップを演じたヴィンセント・カーシーザーのどこか中性的な容貌も独特のムードを生み出している。ここまでキャストにこだわったのだからもう少し一工夫のあるシュールなSFに仕上げてほしかった気がします。

あらすじを聞いていたときからちょっと期待と不安の作品だっただけにその不安がそのまま映像になったのは残念です。全く損をしたとはいえないまでも、それなりの大作なのだからもう少し引き込んでほしかったかな。

逆転裁判
いくら三池崇史監督とはいえ、ゲームの実写版なのだからふつうなら見に行かない。ただ、これも大震災の影響で急遽関東ロケから関西ロケにかわり、エキストラ出演を果たしたことでもあるので見に行きました。

ところがです。これが傑作でした。とにかくおもしろい。最初は一歩引いて見ていたのですがいつの間にか引き込まれてしまいました。ばかばかしいほどのストーリー展開、吉本新喜劇を思わせるぼけとつっこみのせりふの応酬なのですがミステリーとしての謎解きのおもしろさはも一級品に仕上がっている。さらに俳優陣の演技力不足を三池崇史監督の見事な演出力でグイグイとカバーしていく迫力。ハイスピードでピン送り、カット展開のうまさで見せていく映像のリズム感の見事さ。ただのゲームの実写版とバカにしていたら度肝を抜かれてしまう。しかも、ほんのわずかにちりばめられたせりふの中に埋め込まれた人間ドラマ。これはもう脚本のうまさと卓越した演出力とリズム感が生み出した娯楽映画の傑作と呼んでも良いと思います。

火山が爆発しているような真っ赤なショットから映画が始まる。綾里真宵の母で霊媒士の綾里舞子(余貴美子)がうなっている。固唾をのむ人々。舞子が一人の男灰根高太郎のことを口走り犯人だと叫ぶ。タイトル。

どうやらこの真っ赤な場所は冥界であるらしく、殺された御剣検事の父御剣 信弁護士殺害の犯人を透視しているのである。そして犯人は灰根高太郎であると語られる。15年前のDL6号事件である。

そして現代、主人公なるほど弁護士。まだ頼りない彼が拙い弁護をしているシーンに始まる。幼なじみでライバルでもある御剣検事は今をときめく敏腕検事として活躍している。

成歩堂龍一弁護士の事務所の上司の女弁護士綾里千尋が殺される事件が発生。どうやらDL6号事件の重大な証拠を見つけたらしい。その事件の裁判で二人は対決する。ここで、この近未来の序審裁判の説明が的確に語られ、そのシステム、ハイテクノロジーのショットが紹介される。そして、物語はここから彼女を殺害した真犯人を暴く展開、さらに御剣検事の殺人犯事件へとすすみ、そして15年前のDL6号事件の真相へと展開していく。

二時間を優に超える作品でありながらスピーディなストーリー展開もさることながら、それぞれの法廷シーンでの謎解きの妙味もしっかりとしていて決して手を抜いていない。ふざけたシーンや設定、登場する人物なども多々あるにも関わらず適当な笑いでミステリーのおもしろさをないがしろにしていない構成が本当におもしろいのである。

二転三転する物語ではあるが肩の凝らない笑いのペーソスがふんだんに画面を盛り上げ、ラストで登場するオウムの証人など一見ばかばかしいのであるが、そこにいたって不思議と信憑性があって真剣に見入っている自分がいる。この組立のうまさにも頭が下がる。

そして、DL6号事件の真犯人は灰根かとおもわれたがそれを覆し狩魔検事であると見事に見破る展開のおもしろさ。たよりなくてまどろこしい成歩堂弁護士なのだが、ここぞというところで謎解きが一歩進む。それも間延びせずスピーディな演出がものをいうのである。

では、冒頭、真犯人を当てる霊媒士がなぜ灰根が犯人と言ったのか?御剣弁護士が死ぬ間際にみたのが息子が拳銃を持つ姿であり、とっさに彼は息子をかばって灰根が犯人と霊媒士に語ったためと説明するエピローグのなるほど弁護士のせりふに思わず胸を打たれてしまう。

そして、列車で去っていく桐谷美玲扮する綾里真宵、かぶるテーマソング、エンドタイトル、背後に御剣検事となるほど弁護士の「異議あり」の応酬。これこそ娯楽映画の王道といえる基本に徹底した画面づくりに気持ちよく映画館をでることができました。もしかしたら今のところ日本映画のベストかもしれません。と、これは言い過ぎか?でも「逆転裁判2」を作って欲しい気もします。それくらいおもしろかった。

ちなみにエキストラの私は写っていたかって?自分しかわかりませんが、ちゃんと写ってました。