くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「東京上空いらっしゃいませ」「夏の庭The Friend

東京上空いらっしゃいませ

「東京上空いらっしゃいませ」
この映画は本当にものすごくよかった。見逃していたことが悔やまれるくらいに感動してしまいました。軽快な映画のリズムに酔いしれるし、ストーリー展開の洒落っけに打ちのめされてしまいました。

牧瀬里穂が抜群にいい。きらきら光っていて作品を見事に盛り上がげていきます。テレビドラマの彼女も好きでしたが、やはりこの映画での彼女は才能以上のカリスマ的な存在感があります。

新人のキャンペーンガールの神谷ユウがマネージャーの雨宮と電車で移動している。折しも大きなキャンペーンの仕事が決まり、これからそのパーティに行こうというところである。そこには業界でもエロおやじで有名な白雪がいるのだが、この男はユウと二人きりになるように段取りを命じる。

相米慎二ならではの長回しはこの作品でも頻繁に見られるが、非常に流麗で、物語のファンタジックなイメージに最高の効果を上げています。
パーティシーンでユウのポスターがオーバーラップしてパーティ会場にかぶさるテクニカルなショットも美しい。

業界に幅の利く白雪の命令に拒絶することができない雨宮は納得はしないもののしぶしぶ段取りをしユウを白雪に託す。ところが、白雪とユウが車で移動の途中、執拗に迫る白雪にきれてしまったユウはちょっとした隙に車を飛びだす。ところが、そこへ後ろから車が来てユウはひかれて死んでしまうのである。

死んだユウは天国へ誘う案内人のコオロギのところへ。最後にユウが見た人間の姿になるというコオロギは白雪と同じ姿である。彼は別の人間になってしばらく現世に戻れるというので、巧みにだまし、かつての自分と同じ姿でよみがえる。そして雨宮の住まいにやってくる。東京タワーのてっぺんでコオロギとユウが会話するコミカルでファンタジックなシーンがとてもすばらしい。
雨宮の下に住む恋人の郁子が縄梯子で上がってくるという空間設定も相米慎二のカメラワークを効果的に使う上で、またとってもおしゃれなのです。

背後に流れる子供の声やコオロギの鳴き声など相米慎二ならではのユーモアと音の効果も最高だし、加藤登紀子の歌などを流すムードづくりがまた絶妙の雰囲気を生み出すのです。

写真に写らず鏡にも映らないことを知ったユウのものがなしげな心の状態と、それを察してさりげなく包む雨宮の姿にも胸が熱くなってきます。

事故を隠してキャンペーンを続けたものの、気が変わった白雪は追悼番組を組んでユウの死を利用しようとする。それに業を煮やした雨宮が乗り込んで白雪に詰め寄る。そこへユウも自分の姿をさらしてのりこみ白雪に泡を吹かせる。しかし、自分の死を知っている人の前に現れたら共生的に天国に連れて行かれる規則である。それを死って、乗り込んでいく展開がどこかユーモアあるとはいえせつない。コオロギがやってきたのをうまく振り切った雨宮とユウがバーで雨宮のトランペットでユウが軽やかに元気いっぱいに踊るシーンは最高。そしてその後、車で走る雨宮とユウの前にコオロギがやってきて、そして天国へつれていく。

エピローグ、楽器点でトランペットを買っているとユウに似た女の子がトランペットの口金を買ってすれ違うストップモーションで終わる。最高のエンディングである。

鶴瓶の演技がちょっと素人臭いのが鼻につくが、それでも牧瀬里穂のかわいらしさに全編が引っ張られて最後までのめり込むほどに楽しかった。本当に大好きな傑作でした。

「夏の庭 The Friends」
これもまた傑作だった。非常に単純な物語なのだが、映像として見事な作品に仕上がっている。まさに相米慎二監督の脂ののりきった感がある作品だった気がします。

土砂降りの雨の中、少年たちがサッカーをしている。時は夏休み直前、クラスの山下というデブの少年のおばあちゃんが亡くなり、友人の河辺、木山と死についていろいろ考える。

そんな三人は家のそばの草藪の一軒家に住むという老人の死ぬところをみようと夏休みに入ってその家をのぞく。今にも死にそうだと思ったが、忍び込んで観察するうちに次第に老人と親しくなり、次第に家の中に入り草むしりをしたり家を修理したりと仲良くなっていく。さりげないシーンが続くが、軽快なテンポと背後にながれる効果音が不思議なリズムを生んでとんとんと物語が進むのは見事である。

ある台風の夜、この家に自然と集まった三人は老人から戦時中に自分がおこした悲劇的な出来事を語る。そして、少年たちは実はそのことで老人は日本へ帰ってきても妻の元に帰らず今に至っているのではないかと考え、古香弥生という名前の奥さんが生きているのではないかと思い始め、一か八か探してみると、なんと自分たちの担任の女先生のおばあちゃんだった。

こうして、前半の少年たちと老人の交流の物語から次第にこの老人と別れていた妻との話にほんのわずか比重が移っていく様が実に見事である。

時折、背後に爆撃の音なども絡ませて、さりげない音の演出を施していく相米慎二の演出は玲によってであるが、これが作品に深みを与えるからすごいです。ある日、老人は妻に会いに行く決心をする。しかし、その日は少年たちのサッカーの試合で一緒に行けない。一人老人は合いに出かけることになる。試合の後、三人が老人の家に行くとなんと老人は居間で死んでいた。

火葬場で三人が別れをしているところへ女先生が老人の妻で祖母でおある婦人をつれてくる。すでにやや痴呆があるとはいえ、遺体のそばにひざまずいた妻は「おかえりなさい」と涙ぐむシーンは絶品。これぞ淡島千景の力量とうなってしまう。

子供たちが庭に植えたコスモスが生い茂る家、庭の隅にある空井戸に少年が死んだチョウチョを入れるとたくさんの蝶や鳥たちがファンタジックに舞い上がってくるクライマックスはシュールな中にどこかファンタジックで幻想的な趣を呼び起こしてなんともいえない感動が沸き起こってきました。

やがて庭が朽ちていき、家が崩れていく、しだいに迫るマンションの姿が背後に映ってエンディング。このシュールなエンディングも見事である。時の流れ、ひと夏の出来事の終焉、つかの間の活動写真のドラマのひと時を体験した見事なエンディングでした。

「お引越し」
これもまた傑作でした。幻想か現実かの狭間を行き来する映像とストーリー、心理描写か現実か交錯する映像の妙味が一人の少女レンコの行動の周りで繰り広げられる。それは彼女の希望であり、現実からの逃避であり、絶望とささやかな未来へ踏み出す勇気である。なんといってもレンコを演じた田畑智子が抜群にすばらしい。

窓をシンメトリーにとらえた画面、外h雨が降っている。ふっとショットが変わるとぼうっと外を見る父ケンイチの姿、カメラが引くと不自然な三角のテーブルの食卓につく母ナズナ、娘レンコが座っている。どこかぎくしゃくしたムードで一見仲が良さそうなレンコとケンイチ。険悪な雰囲気のナズナ

どうやらナズナとケンイチは別居を間近に控えている。場面が変わるとケンイチが一人いずこかへ引っ越しをする準備。走り回るレンコの姿。学校の昼休みに飛び出してきてこれから引っ越していくケンイチの車に乗る。

そのままケンイチの家までついていく。このシーンにレンコの父を失いたくないという想いが見事に描かれる。

ナズナと二人暮らしになったレンコだが、妙に険悪なムードのナズナの姿に緊張感のある場面が続く。しかし、しっかりとナズナはレンコの世話をしているのがかえって緊迫感を増幅させるのだ。相米慎二のカメラはことの次第をもらすまじといわんばかりの長回しの効果を生み出している。

時は京都祇園祭を背景に、大文字山送り火へと進んでいく。なんとかレンコは両親ともう一度暮らしたいという思いが断ち切れず、学校でも時にいらついた行動をとる。そしてクラスメートのミノルのすすめで終業式の日に部屋に立てこもる作戦を採る。しかし、その準備中に母が帰ってきて、とりあえず風呂場に飛び込んで籠城するレンコ。

駆けつける父や後輩のユキオたち。

ガラスを素手で割ってドアを開けるナズナのシーンで緊張感は最高潮に達する。このまま二人はどうしようもなくなるのかとどんどんテンションがあがっていくが、まだまだあきらめきれないレンコは毎年家族と旅行に出かけた琵琶湖への旅行を勝手に企画して切符とホテル予約までしてしまうのだ。

琵琶湖祭りの日。1人雑踏の中を歩くうちに1人の老人に出会い、ひとときを過ごし夜の花火大会へ。三人がどうしようもなくなったことを受け入れざるを得なくなっていくレンコは花火の後1人夜の山道をさまよう。このシーンが少々くどいように思われるが、これもレンコの心の葛藤をフィルムの長さにしたと考えるとそれなりの意味があるものと思える。

幻想か、心の彷徨か、現実と心の景色か判別のつかない場面が展開する。

夜明け、浜辺にたつレンコの前に祭りの山車が海から流れてくる。それを曳くのは幸福だった頃の父。そして近くに幸せだった頃のレンコとナズナもいる。しかし、その幻想の両親は沖へ歩いていき、山車は炎に包まれる。一人残った幻想のレンコと抱き合い、「おめでとうございます」とさけぶ。

背後に現実の母ナズナがいる。そして、二人は電車に乗っている。すべてを受け入れ、母と二人で仲むつまじく会話するレンコとナズナのシーンでエンディング。

作品全体が主人公レンコの心の心象風景であり、現実の物語と時として交錯する展開は独特の陶酔感と胸に迫る主人公の心の描写が何ともいえない熱さが伝わってきます。シュールであってリアルである。この魅力がすばらしい一本です。傑作、その言葉がぴったりの映画でした。