くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「レ・ミゼラブル(トム・フーパー監督版)」

レ。ミゼラブル

大ヒット名作ミュージカル「レ・ミゼラブル」の舞台を映画として作り直した大作の貫禄十分の秀作でした。もうラストは涙があふれてくるし、見終わって拍手したくなる感動に包まれる。つまりあくまで映画として、映像として昇華させたのではなく舞台として完成させた感動なのです。その特異な映像表現にも拍手したい。本当にいい映画でした。

作品全体を完全に舞台として意識した演出が施されています。したがってオープニングはタイトルはなくいきなりジャン・バルジャンが労役についているシーンから始まる。そして、かたわらに宿敵ジャベールが登場。まもなくジャン・バルジャンは仮釈放されるが、どこへ行ってもさげすまれるだけ。そして、教会にかくまわれたところで銀食器を盗むという原作の有名なエピソードへと流れて行く。冒頭からの導入部がちょっと映像としてやや迫力に欠ける上に、歌曲の歌うシーンを丁寧に追って行くので、映画としてのつかみとしてはやや弱い。二時間半あまりという長尺な作品なのでこのあたりは一気に観客を釘付けにする必要があるが、舞台を映像に転換すると言う意図で演出されているのでここは我慢どころ。

ところが、ジャン・バルジャンがファンテーヌに託されたコゼットを見つけ、救出するあたりから俄然映像が動き始める。縦横に駆使される構図と大胆なカメラワーク、テンポのいいカットと挿入される歌の数々にどんどん引き込まれ、あとは残る物語を一気に駆け抜けていきます。ファンテーヌ演じるアン・ハサウェイがここまででいったん画面から消えるのはちょっと残念でしたが、これはラストでもう一度登場するのでいいとしましょう。

革命シーンあたりになるとその壮大すぎるセット(CG?)と豪快な移動撮影でこれ見よがしに大作の貫禄をぶつけてくるのですが、学生たちが集まるバリケードのシーンや背後の町並みのショットは舞台の美術セットを尊重した画面になっている。時にオリジナルの舞台の雰囲気を保ちながら、まるで俳優達が目の前の舞台で演じているかのような画面作りをするかと思うと大きくカメラが俯瞰になって歴史的なドラマを迫力ある映像で見せて行く。この緩急がどんどんテンポを速めて行くとクライマックス、若いコゼットとマリウスの恋の成就のために必死になるジャン・バルジャンの姿へと大団円に向かうところは圧巻。ただ、原作に歌われるジャベールの苦悩が、ミュージカルゆえもあるかもしれないがやや迫力に欠けるために、ジャベールとジャン・バルジャンの葛藤がちょっと目立たないのが残念。

とはいえ、最期を迎えるジャン・バルジャンに駆け寄るコゼットのしーんから一転してそれまでの登場人物が全員バリケードの上に乗って旗を振り、遥かかなたまで広がる町並みを背景に名曲「民衆の歌」が奏でられると思わず目の前に「レ・ミゼラブル」の舞台がまざまざと浮かんできて自然と拍手したくなる。そのままエンドクレジット。これはまさに舞台劇である。もちろん映画として完成はされているものの、その見事な構成と演出にただただ拍手したくなりました。トム・フーパー監督の前作「英国王のスピーチ」はいまひとついただけませんが、今回は良かった。

フルミュージカル、いわゆる台詞はまったくなく全て歌詞でつづられていく物語は日本では一番ヒットしづらいタイプの映画ですが、原作の知名度もあって、なかなかのエンターテインメントとしても出来上がっていた気がします。俳優が歌う歌というのは基本的に歌の専門家としての歌手が歌うものとは別物なので、上手下手という視点は違うのですが、そのあたりもしっかりと演出されていたように思います。

大作の貫禄十分なミュージカル映画の秀作の誕生でした。