くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「しあわせカモン」「マリア・ブラウンの結婚」

しあわせカモン

「しあわせカモン」
こういう小品の映画には時としてとっても味のある映画がある。そんな一本に出会いました。決して名作とか傑作とか呼べる出来映えではないのですが、どこか心に響く、なぜか一生懸命みてしまう映画なんです。

物語は岩手県を拠点に活躍するミュージシャン松本哲也の母扶美江の物語である。映画が始まると岩手の山に向かって歩く三人の少女。一人一人将来の夢をはなすが最後に扶美江は「幸せになりたい」と語ってタイトル。

大人になった扶美江がプロレスのポスターに見入っていると一人の男がチケットを渡し、もう少し派手にした方がいいよとアドバイスする。そして物語は本編へ。ここまでの導入部が本当にいい。

この男と結婚し子供哲也が生まれるが、この男がある日家に隠した覚醒剤におぼれていく母の姿がここからの展開になる。子供が小学校、中学校、そしてミュージシャンとしての自立まで、立ち直ったかと思えば薬におぼれる母の姿とそんな母に反抗しながらも一緒に暮らそうとする哲也の母と子の暖かい絆が何とも切ない。

口が悪くて、ことあるごとに喧嘩腰になる扶美江のキャラクターがとってもかわいいし、対する哲也のちょっと幼い演技が好対象に物語を盛り上げていくのです。

ラストは母の死で終わるのですが、単純なお涙映画にならずに、それまでのエピソードに二人のすれ違う何ともいえない心の交流が純粋で、それだけでも子の映画が値打ちがある。母扶美江を演じた鈴木砂羽が暑い演技でスクリーンから迫ってくるし、とっても愛くるしい。

これでもかとすれ違う二人の行動がどこかでしっかりとつながっている危うさがとにかく胸に迫ってきて、ラストは何ともいえなく心にしみてしまってエンディングを迎えるのです。いい映画でした。これが映画の一つの楽しみですね。


マリア・ブラウンの結婚
まだ無名に近かったファスビンダー鋸の作品を試写会で見て一緒にみていた友人と度肝を抜かれるほどに驚いて、「これはめちゃくちゃよかった」と思わず声を上げた傑作を三十年ぶりにニュープリントでみることができた。

そして、改めて子の映画がファスビンダー監督の大傑作だと改めて納得してしまった。本当にすごい。

映画が始まると主人公マリアがヘルマンと結婚式の最中。爆撃であわやのところで式を執り行い届けをする。真っ赤なクレジットが画面のところ狭しと映し出される。最初みたときはここからもう衝撃で画面に釘付けになった。

物語は庫のヘルマンが戦地で行方不明になり自分の才覚で第二次大戦を生き抜いていくマリアの姿を描いていく。

娼婦に近いようなことをし、黒人と懇ろになったところへ夫が戦地から帰ってくる。思わず黒人を殴り殺してしまうが、ヘルマンがマリアの罪をかぶって刑務所に。マリアはヘルマンの帰りを待つために強く生きていこうとする。

そして身につけた英語をつかい列車で射止めたフランス人実業家オズワルトと懇ろになりその商才を発揮してお金持ちになっていくマリアの姿を描く。

時に大胆なくらいに細かいカットをつなぎあわせ、ゆっくりとパンするカメラワークで独特の緊迫した映像のリズムを生み出していく。
物語の背後にラジオの実況中継や効果音を挿入して映像に当時の世相を盛り込んで独特のムードを生み出していく。

やがて、ヘルマンは出所してカナダへ。そして成功してマリアの元に戻った頃にオズワルトも病死してしまう。その遺言でオズワルトの資産はマリアとヘルマンへ。これからようやく本当の新婚生活かと思われたときにガス漏れによる爆発であっけなく幕を閉じる。衝撃のラストシーンである。

映像のリズムが実に小気味よくて、マリアを演じたハンナ・シグラの名演もありクライマックス、ワールドカップのドイツの優勝とともに爆発をするエンディングは身の毛もよだつほどにすばらしい。これが映画史に残る傑作と呼べる一本の真価である。何度みても見事な映画です。