くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「東ベルリンから来た女」「ルビー・スパークス」

東ベルリンから来た女

「東ベルリンから来た女」
ベルリンの壁崩壊9年前の物語、監督はクリスティアン・ペッツォルトという人である。

全編に一本の弦を張りつめたような緊張が走る一本でした。部屋の外に聞こえるガタンゴトンという物音が不気味なほどに緊迫感を演出していく。物語は非常に淡々としているがサスペンスフルな展開を徹底している。この充実感がこの映画の真価だと思うけれども決して娯楽映画とは呼べない。

ギターの音をバックにしたタイトルが終わると一人の女性がバス停に座る。主人公のバルバラである。上から見下ろすアンドレ医師傍らには秘密警察のシュッツがいる。

このバルバラは東ベルリンで西ベルリンの恋人にあうために脱出を企てたために地方の病院にとばされたという設定らしいが、その説明はほとんどない。

指定された官舎ですむことになるが秘密警察の監視の目が常に光っていて、何度か家宅捜査されるシーンが挿入される。

赴任してまもなく一人の少女ステラがかつぎ込まれる。作業所と呼ばれる収容所のようなところから命からがら逃げたらしく、病気にかかっている上に妊娠している。何とか治療をすませるがすぐに作業所へ連れ戻される。

バルバラには時々西から恋人ヨルクがやってくる。そして次の脱出の計画が示される。この脱出の期日までの緊迫感とアンドレ医師がバルバラを監視しているスパイなのかというサスペンスが入り乱れてさらに緊迫感が高まる。

そこへ次の患者ヨルクがかつぎ込まれる。自殺未遂の彼は治療は終わったがどうもおかしいということでバルバラアンドレが注視。そしていよいよバルバラの脱出の期日が迫る頃、この患者を開頭手術の必要が発生。それがなぜか当日に。

このあたり、サスペンスとはいえちょっと作りすぎた気がしないでもない。結局、アンドレ医師はバルバラを監視していたのだが、ほのかな思いを寄せているのも事実。

そして決行の日、バルバラが家を出ようとすると作業所を逃げたステラが官舎に駆け込んでくる。バルバラは自分の脱出用に準備したお金を持たせ、自分に代わって彼女を脱出させ。翌朝バルバラアンドレ医師のところへ。目と目を合わせてエンディング。

隙のない物語の組立と展開が非常に重苦しく。自転車で病院を往復するバルバラの背後の林が常に強風にあおられていたりするのも周りに誰もいないのに彼女がどこからともなく監視されているという緊張感を生み指します。

バルバラアンドレ医師を探して見つけたところにいつもくる秘密警察の男シュッツがいて、その妻が末期ガンでアンドレ医師の往診を受けているというショッキングな遭遇さえも淡々と描く演出は逆にこの物語の怖さを強調するようにも思えます。

東ベルリンの抑圧された人々の物語なのですが、末期ガンの妻の看病をするシュッツにもどこかもの悲しさが見られるシーンもあり、このあたりの深みのある演出がラストの東で暮らすことを決意したバルバラの行動に意味を持たせたのではないかと思えます。なかなかの秀作ですが、観客を楽しませるという意識の全くない映画だった気がします。


ルビー・スパークス
大好きな映画「リトル・ミス・サンシャイン」のジョナサン・デイト、ヴァレリー・ファレス監督久しぶりの新作はとってもしゃれたラブストーリーでした。

映画が始まると夕日をバックに一人の女性がほほえんでいる。片方のサンダルがないと言う。瞬間に主人公カルヴィンが目を覚ます。かつて書いた小説がベストセラーとなり天才と呼ばれた彼も次の作品が全く進まず、愛犬のスコッティと暮らす。この犬、雄のくせにしゃがんでおしっこをするところがちょっとコミカルなのですが、もう少しこの犬を使っても良かった気がする。犬の散歩をするカルヴィンのショットのバックの空に「ルビー・スパークス」のタイトルが映る。

このカルヴィン、スランプで全く小説が進まないのだが、ある日、自分が創造したルビー・スパークスが目の前に現れるところから本編。

自分の書いたとおりに彼女の性格や行動が現実になっていくのに、最初は気が触れたかと思うのだが、弟のハリーにもカフェの客にも彼女が見えることで現実時がつく。全くファンタジックな展開からどんどんお話が広がっていく。

このルビーは最初はキュートでかわいいのだが、自分の書いたとおりになるのが物足りなくなり、途中からカルヴィンが書くのをやめるとどんどん人間らしくなってきて、自分から離れていかんとする。そこでまた書き始めて自分に気持ちを向けるのだが、どこか疑問を感じ始めるカルヴィンの姿がだんだん物語を奥の深い展開へ導いていくのです。

彼の両親がすっ飛んで変わり者であったり、弟のハリーが妙に人なつこくていい人間だったりとこういう周辺のキャラクターの描き方が実にうまいのがこの監督の個性かもしれません。

クライマックス、でていこうとするルビーにカルヴィンは真相をはなし、目の前でタイプライターを打って自由自在に彼女を操る下りはまさにホラー映画の如し。

犬の格好をさせたり、指を鳴らし続けさせたり、狂ったように踊らせたり。だが、その後飛び出したルビーの姿を見たカルヴィンは「ルビーは家を出るとすぐすべての過去から解放される。彼女は自由になった。ルビー、愛している」と締めくくる。

何とも切ないのだが、このクライマックスの急展開の構成が実にうまいとうなってしまうのです。なんと脚本は名匠エリア・カザンの孫でこのルビー役もこなすゾーイ・カザン。前半のファンタジックな展開から、人間くさいラブストーリーへの転換、そしてこのクライマックスへの持ち込みの組立がすばらしいのです。

そしてエピローグ。カルヴィンはタイプライターを捨てパソコンで「ガールフレンド」という題名でこれまでの体験を小説にするとこれがベストセラー。そして、いつものようにスコッティをつれて公園を散歩してると、一人の女性がうつ伏せで本を読んでいる。振り返るとルビー・スパークス。彼女はカルヴィンのことなど全く覚えてなくて、新たな恋が始まる。まぁ、当然こうなるだろうというラストなのですが、きれいにまとめたエンディングで気持ちよく映画館をでることができた。

場面転換ごとの音楽の使い方も本当に小気味良くてテンポがいいし、軽いタッチながらクライマックスの彼女を自由に操るシーンで倒れた彼女の足に赤い靴が履かれているというお遊びまで実に丁寧な演出が施されている。ファンタジーのみで終わらせないちょっとした切なくも考えさせられるラブストーリーの秀作でした。欲を言うともうひとひねり何か足りないような気がしないわけでもないのですけど。でも良かったです。