くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「さびしんぼう」

さびしんぼう

コミカルな展開の中に切なくて切なくて、どうしようもないほどの青春のノスタルジーを織り込んだラブストーリーの秀作。
大林宣彦が描く尾道三部作の一本で見逃していた映画をようやく見ることができた。

尾道の暖かい懐かしい風景をカメラのファインダーを覗く主人公ヒロキの言葉から映画が始まる。近くにある女子校の少女百合子に密かな恋心を持ちながら毎日を暮らすヒロキはある日、大掃除の時に母のアルバムの写真をばらまいてしまう。

ところが、しばらくしてピエロの格好をした白塗りの少女が彼の前に現れる。人を恋したらその人をさびしんぼうと呼ぶのだと冒頭のナレーションで語るが、ここにさびしんぼうと自称する白塗りの少女が時折現れるようになるのです。

こうして、どこか不思議な感じのファンタジックな青春の一ページの物語が始まる。この前作の「時をかける少女」と違って舞台は港に近いお寺の息子という設定故に、頻繁に海のショットが美しく描かれる。

前半はヒロキと友人二人によるコミカルなシーンが繰り返され、学校でのお話は実に軽快に笑わせてくれる。しかし、じわじわとピエロの少女さびしんぼうが頻繁に画面に登場し始め、物語は百合子との偶然の出会いで一気に終盤へなだれ込んでいく。

このピエロのさびしんぼうが実はヒロキの母の16歳の姿であり、ヒロキがかつて母が恋した男性の名前であり、その彼はピアノが上手で勉強もできたというまさに母がヒロキに望んでいるそのままの彼だったことが次第に明らかになる。そして雨の夜、若き日の思い出をかなえるようにピエロのさびしんぼうがヒロキに抱きすくめられるシーンはもう涙がじんわりと流れてきました。

エピローグ、ばらまかれた写真の一枚に映っている若き母の舞台の写真はピエロのさびしんぼうの姿だった。

かなわなかった青春の一ページの恋、誰もが経験し、だれもがその思い出を決して忘れない。そんな、ふと思い出すと涙ぐんでしまう懐かしい思い出をファンタジーという形を交えて描いたこの映画は青春映画の一つの金字塔かもしれません。

ノスタルジーに彩られたラブストーリーの秀作。決して、傑作という言葉が適当ではないほどに余りにも切なくて、そして、忘れたくない思い出のような映画、そんな一本でした。本当に良かった。