くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「忘れじの人〜船場の娘より〜」

忘れじの人

地に足が着いた感じの日本映画の秀作。とってもいい映画、18歳から46歳まで演じた岸恵子乃演技が光る名編でした。
それに、船場言葉と呼ばれる大阪弁が実に自然で美しい。今やこれだけの大阪弁を語れる俳優さんはいないだろうと思えるほどに、誰もが本当に自然に会話していく。

大阪の町並みもふんだんに盛り込まれ、太左衛門橋、道頓堀、天神祭、三味線芸者等々懐かしい景色が物語を引き立てていきます。
監督は杉江敏男という人で、黒澤明監督の「姿三四郎」の助監督についた人です。

大阪城のカット、手前を三両の電車が駆け抜けていくショットから映画が始まります。
人形浄瑠璃を見に来ている主人公雪子とその娘葉子、そして、浪速千栄子扮する勝子。娘の葉子は退屈であくびをしている。途中の休憩の時、葉子に電話が入る。
恋人の島村からで、急ぎの話があるという。

雪子が夜遅く帰ってみると葉子が一人泣いている。芸者の娘とは結婚できないと島村の父にいわれたのだそうだ。島村の父は船場の旧家である。その話を聞いて雪子は娘にかつての自分の若い頃を語り始める。

カメラが人物に寄ったり引いたりを繰り返すのがこの監督の好みのようで頻繁に出てくるが、他のシーンは固定したカメラでやや長めのシーン演出が施され、それに答えるように、しっかりと演技をこなす俳優たちの技量がこの作品を支えていく。

いとはんとして一人娘船場の旧家でかわいがられた雪子。実は彼女の実の母は小鈴という芸者で、この家の主人との間に子供ができたが、芸者と老舗の商家では結婚ができず、子供だけとられて別れさせられたのである。今の母は育ての母だが、雪子を我が子のようにかわいがり育てたのである。

しかし、この商家も傾きかけていて、成金の井村との縁談話がある。一方雪子は奉公人の秀吉に気がある。

何度も太左衛門橋での逢い引きのシーンが繰り返され、川の方から橋の上をとらえるカットが頻繁に出てくる。

心配した番頭や父は秀吉を東京へやってしまい、雪子との仲を裂くが、ある日秀吉から雪子に電話がはいり、弁護士になったら東京へ呼ぶからきてほしいと告げられる。しかし、その直後関東大震災で二人は別れてしまう。やがて秀吉の死が知らされ、自暴自棄になった雪子は井村のところへ嫁に行くが、放蕩息子の井村に閉口しているところへ、雪子が芸者の娘だとばれて離縁される。

そして、勝子を頼って芸者になった雪子は、お座敷帰りに太左衛門橋を通ったときに大阪に戻った秀吉に再会。彼は生きていたのである。しかし、結婚し、子供もいると知って、その場を後にする。やがて、雪子は旦那が見つかり、葉子が生まれる。

と、回想シーンの後、雪子は葉子に東京へ行く島村について生きなさいと叱咤するのである。旅だった娘を後に、一人太左衛門橋にたたずむ雪子のカットでエンディング。

芸術的な傑作とか名作ではないかもしれないが、非常にしっかりとして日本映画として完成されているし、とても今では作れないほどのクオリティがある。日本映画全盛期の一本としては見応え十分な秀作でした。