くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ウォーム・ボディース」「ビザンチウム」

ウォーム・ボディーズ

ウォーム・ボディーズ
なんとも不思議なラブストーリーである。所々に、美しいショットが挿入されているところを見ると、このジョンサン・レビン監督はかなりロマンティストなのだろう。

吸血鬼や狼男とのラブストーリーの次は、とうとうゾンビと人間のラブストーリーが登場。共通しているのは女性が人間というところである。やはり女性の考え方は男と違ってかなり柔軟でロマンティストなのだろうか?

と、そんなことはともかく、映画はふらふらとゾンビとして歩き回るRという青年のシーンから始まる。といっても、Rという名前はジュリーという人間の女性と出会ってからの名前なのだが。

ふらふらとさまよい歩くRのシーンにかぶって、ゾンビたちの今の生活のナレーションと、タイトルがかぶっていく。

ウィルスの影響か世界中の人間のほぼ半分がゾンビになり、人間は壁を作って居住地としている。Rには親友と呼ばれるM(ラストでマーカス)がいる。

ある日、人間を食料にするために町に出かけるRたち。一方、壁の中で組織された物資調達班の若者たちもまた壁の外へ、任務を負ってでていく。その中に、この物語のヒロインジュリーもいる。そしてその恋人ペリーもそのグループにいるのである。

そして、ジュリーたちが調達しているところへ、Rたちのゾンビが襲いかかるのだ。そして、Rはペリーを食い殺し、その脳を食べるのだが、なんと脳を食べるとその記憶がゾンビの中に取り込まれる。そしてジュリーを見た瞬間、ペリーの記憶と重なったRはジュリーに一目惚れしてしまい、彼女を拉致してゾンビの住処へつれていくのである。

こうして、ゾンビの青年と人間の女性の何とも奇妙なラブストーリーが始まる。ゾンビの中には、自分の体を食いちぎり骸骨のようになった種族も存在する。

Rはジュリーを守りながら、誠実に接しているうちに何か変化が生まれ、いつの間にか人間に近づいていく自分を感じる。一方、そんなRたちを憎々しく思う骸骨ゾンビが彼らをねらい始める。

ある夜、Rはジュリーに、自分がペリーを食い殺したことを告白、翌朝ジュリーは父の元へと去ってしまう。しかし、骸骨たちにねらわれていることを知らせるため、、危険を承知でRは人間の住処へ。一方ジュリーもいつのまにかRに惚れている。そして、Mたちも、ジュリーとRの姿から何かの刺激を受けて変わっていく自分たちを実感しているのである。

やがて、骸骨たちが大挙して人間を襲ってくる。立ち向かう人間、そして変化しつつあるゾンビもやがて人間の味方に。最初は半信半疑だったジュリーの父で討伐隊の隊長もことの変化を受け入れてクライマックスへ。

戦いの後、次第にゾンビはさらに人間に変化していく。当然Rはほとんど人間へともどって、Mも人間の彼女を見つけたようなシーン、他のゾンビも人間らしく心臓が動き始め体に体温が戻っていくような心の後、ジュリーと夕日を眺める美しいショットでエンディング。

たわいのない作品であるが、全体に流れるロマンティックなムードは、導入部のどこかどろどろしたゾンビ臭い嫌悪感は次第に、ぞして徐々にRの化粧も美しくなっていく細やかな演出が好感。冒頭で、やたらRが脳を食べるシーンはいかにもゾンビ映画ではあるが、敵が骸骨ゾンビと割り切った後半部分からはアクションラブストーリーの展開になっていく。

少々強引なストーリー展開と、あれ?と思うところもなきにしもあらずですが、気楽にみれるB級ラブストーリーの珍品といった感じの一本でした。


ビザンチウム
インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」のリール・ジョーダン監督作品ゆえか、さすがに格調の高い映像に魅入ってしまいました。人物を中央には位置し、その背後にぐーんと伸びるシンメトリーで一点透視の構図が何度もでてくるし、ネオンの色や真っ赤な血の色などを配置した色彩演出もすばらしい。

なんといっても、離れ島にある神殿で人間が不死になる瞬間に、流れていた滝が真っ赤に染まるショットはかなりシュールで宗教感を生み出してきます。

物語は一人の少女エレノアが自宅でなにやら書き物をしている。どうやら、自分がヴァンパイアになったいきさつをつづっているようで、その書き留めた物を窓からいくつも捨てる。その一片を一人の老人が拾う。そしてエレノアを自宅に呼び、不死の生き物の存在をかつて聞いたと告げて、自らの体をエレノアに与える。エレノアは老人の血をすするのである。

画面が変わる。いかがわしい店で一人の女クララが客を接待しているが、客が襲ってきたので、暴力を振るい、店を首になる。なにやら不気味な男が彼女をつけていく。クララはその男を自宅にいれ、隙を見て首を絞めて切り落とす。男はエレノアの写真などをクララに見せたのである。どうやら、何かの組織の追っ手らしいと思わせる。鏡を使った構図や、ゴールドを基調にいた部屋の装飾がいかにも不可思議なムードを生み出す。このあたりの美術センスはさすがにイギリスの監督らしい。

部屋に帰ってきたエレノアはクララにつかみかかるが、クララは、身に危険が迫っていると、引っ越すことを決意、部屋に火を放つ。

横に長い画面を有効に使った意図的な画面づくりがなんとも美しく、スタンリー・キューブリックを思わせるようなイギリス的な演出がとっても個性的である。一点透視の配置のみならず、画面の隅に置いた人物の正反対側に広がる柵のある浜辺や、船の配置なども実に美しい。

どうやらクララはエレノアの母であるらしく、時折フラッシュバックで、エレノアの生い立ちや母の過去が交錯して挿入される。

たどり着いたのは土地で、クララは一人の男ノエルを客にとる。そして、まんまとノエルの亡き母が経営していた下宿屋にすむことになる。かつてホテルだったというだけあって、レトロなたたずまいの内装が実に趣があるし、そんな建物を効果的に画面づくりに利用していくニール・ジョーダンの演出も秀逸である。

ある日、エレノアがあるレストランにおいてあるピアノを何気なく弾いていて、そこで仕事をしているフランクに出会う。その日はそれほどのこともなく別れたが、後日、自転車に乗っているフランクと接触、けがをしたフランクの血が止まらずにエレノアは彼を自宅へかつぎ込む。彼は白血病で、抗凝血剤を飲んでいたのだ。
この日から二人は何気なく急速に接近していく。

一方クララは、ノエルの下宿で売春宿を営み始める。画面が変わると、なにやら刑事らしい二人の男が、クララたちが放火した部屋を調べている。その後、クララが浜辺で襲って血をすい、殺した男を調べたりもしている。どうやら、彼らは先の負っての仲間らしい。途中からこの二人のうち一人はダーヴェルであるとわかる。

物語の本筋の合間合間に挿入されるフラッシュバックで、クララとエレノアの200年前の出来事が次第に明らかになってくる。この挿入カットが実に巧妙で、決して現代の本筋のストーリーを崩さない上に、現代で微妙に絡んでくる教会の神父や孤児院の院長の関わりなども物語に深みを与えてくる。

クララは遠い過去、娘時代に浜辺でダーヴェルとルヴェンという二人の兵士に出会う。ルヴェンはクララを連れ去り、手込めにして娼館へ売り飛ばす。そしてクララはそこで、一人の女の子を産むが、その子を密かに孤児院へ預ける。やがてクララは肺病になる。

一方、ダーヴェルとルヴェンはアイルランドへ遠征にいった先で、ダーヴェルは病に倒れる。そして、そこへ二人の不気味な男が現れ、不死になる神殿がある島の地図を託す。ダーヴェルはルヴェンとそこへいくが、ダーヴェルが一人でその神殿の中に入る。無数の鳥が舞い上がる、その穴の中で悲鳴を聞いたルヴェンが中にはいると傷だらけのダーヴェルが横たわっている。ルヴェンはダーヴェルの装飾品を奪い、死んだものと思ってその場を去る。しかし、実はダーヴェルは不死の生き物としてよみがえり、クララを食い物にしているルヴェンのところにやってくるのである。

そこで、ルヴェンに神殿の地図を渡すが、肺病で余命いくばくもないと思ったクララがそれを奪い、ルヴェンを撃って自分が神殿に行く。そしてそこで、不死の生き物としてよみがえるが、血を求める自分の姿、永遠の命を得た自分の孤独にさいなまれ、16歳になったエレノアを見つける。しかし、そこで、エレノアもルヴェンにおそわれるところを見るにつけ、ルヴェンを殺しエレノアを神殿へつれていく。そして無理矢理不死の生き物にするのである。

この過去をエレノアはフランクに文章にして渡す。それは孤児院の課題文章だったのだが、フランクはそれを院長に見せてしまうのである。

それを知ったクララは激怒し、孤児院の神父を殺してしまう。やがて、追っ手がクララたちの居場所を見つける。一人はダーヴェルである。どうやら吸血鬼の組織のようなのだが、この組織についてはあまり深く説明されない。

追っ手はエレノアを捕まえるが、フランクを殺すために出かけていたクララは助かる。しかしエレノアが捕まったと聞き、彼らが乗った車に突進して助けようとするが、最後に捕まる。追っての男がビザンチンの刀でクララの首を切るようにダーヴェルに指示するが、ダーヴェルは男の首を切り落とす。そして、クララを助け二人でいきることをきめる。200年たってダーヴェルのクララへの重いが遂げられたのかもしれない。

クララはエレノアを解放する。エレノアはフランクを神殿につれていく船に乗っている。そして、ナレーションの後エンディング。

それぞれのシーンが非常に丁寧な画面づくりがなされている上に、ストーリーの組立も実に巧妙ですばらしい。さりげないエレノアのナレーションも中心のストーリーに影響することもなく挿入されている。

どれがキーになる物語かという部分がやや弱いかもしれないが、それぞれのエピソードがきっちりと構成されているので、散漫になった印象は全くなく、ラストシーンまで芸術的な映像美で描かれていく。かなりハイレベルな秀作でした。