くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ハンナ・アーレント」「フィルス」

ハンナアーレント

ハンナ・アーレント
非常に高尚というか、教養のいるハイレベルな内容の作品でした。

物語の主人公、ハンナ・アーレントという人物自体にほとんど知識がない上に、その描かれている1960年代の時代背景、そして、ナチスによるユダヤ人迫害に対する人々の考え方の変遷、実際に拉致され、収容所へ移送されるところを脱出した一人のユダヤ人である彼女の立場など、なにもかもが、非常にハイレベルな教養の上になり立つストーリーなのです。

従って、本当にこの作品のすばらしさを理解しえたかは、かなり疑わしいのですが、全編、緊張感が全く途切れない見事なカメラワークと、洪水のように繰り返される、論争に近いせりふの応酬に、スクリーンの画面から、そして聞こえてくる言葉からひとときも逃れる暇がありませんでした。圧倒されます。それほどに、迫ってくる迫力は半端ではない。そんな作品でした。

監督はマルガレーテ・フォン・トロッタです。

映画は1966年、暗闇に一台のボンネットバスがこちらに近づいてくる。そして一人の男が降り立つが、近づいてきた車に拉致される。拉致されたのはナチスの高官アイヒマンである。こうして映画が始まる。

その記事がでるや、アメリカの大学で教鞭を執っていたハンナ・アーレントは、彼の裁判にイスラエルに赴き、その傍聴内容を書いた記事を発表することにする。

ところが、その内容が、アイヒマン擁護にとらえられるということで、世間のみならず、哲学者である旧知の友人も含め、非難の的にされてしまうのである。

物語は、様々なところからの非難をまともに受けながらも、毅然と自分の主張を貫き、アイヒマンが行った悪について、いや、人々がとらえる悪についての概念を徹底的に追及していく姿を描いていく。

彼女の手伝いをするロッテや愛する夫、親友のメアリーがささやかな支えになるなか、ただ、信じることを語っていく。実際に収容所にいたユダヤ人としての自分にしかかけない、本当のナチスの行った悪の根源、そのメッセージは学生たちからは真剣にとらえられていくのである。

しかし、死の間際まで、彼女が一般世間で理解されることはなかった。

ナチスが行ったユダヤ人迫害は異常なことである。しかし、それは知識を追求した結果による人間の一つの過ちだったのではないか?ユダヤ人=人間、であり、人間に対する悪の実行ではないか?様々な言葉がスクリーンの中からあふれてくる。興味深すぎる内容にどんどん引き込まれていく演出スタイルの迫力がすごい。

見事な作品だったと思います。もう少し自分に教養があれば、もっと理解し、楽しめたかもしれません。


「フィルス」
とにかくおもしろい。次から次へと下劣で、下品なシーンが続くのですが、実にスピーディで、テンポがいい。それでいて、憎めないほどにシュールなカットもたくさん挿入され、決して退屈させない映像のおもしろさも満喫させてくれます。ラストの、どんでん返しと、驚きの結末の後に続く何か切ない余韻は何だろう、なんて思える小粋な一本でした。監督はジョン・S・ベアード、「トレインスポッティング」の原作者です。

映画は、一人のセクシーな女性が下着姿で「さめた夫婦の関係を呼び起こすのは、じらせること」などと、鏡の前を移動しながら語りかけるシーンに始まる。

画面が変わると、夜の人通りのないトンネルに日本人らしい若者が歩いていて、その後ろに不良たちがついてきて、その日本人を叩きのめす。突然、さっきの女性の後ろ姿。それを見た不良たちが逃げる。女が日本人に駆け寄るカット。

続いて、主人公ブルースが、警察署で日本人留学生の殺人事件の検討をしている。周りに同僚たちがいる。警部補昇進を間近に控えたライバルたちをコミカルに紹介。とにかく、ポンポンとシーンが展開する小気味良さが最高なのです。

物語は、この殺人事件の指揮を任された主人公ブルースが、同僚を陥れ、いたずらし、女とSEXし、ドラッグを吸い、やりたい放題の悪徳警官ぶりを描いていくが、時折、彼が見た人間が豚や羊に変わったり、妙なシーンが挿入される。

どうやら、精神的に病んでいるようだが、でてくるシーンは同僚の妻とSEXしたり、人種差別発言を平気でしたりとやりたい放題なので、見ているこっちはおもしろいやら、混乱するやらになっていく。

途中で、ブルースの妻キャロルに似た金髪の人妻に引かれたりもするシーンが挿入され、物語は次第に終盤へ。

どうやら、ブルースの妻キャロルは自宅にいないらしい。そして、異常行動がピークになってきたところで、彼は鏡の前でストッキングをはき、助走して金髪の女になる。そして夜の町で一台の車に連れ込まれる。冒頭の不良たちだ。彼らの殺人を目撃したのは女装したブルースだったのだ。そして、コテンパンにやられるが、起死回生で一人をやっつけ、警察がかけつけて事件解決。

実は、ブルースの妻は黒人の男と去っていたらしいことが終盤で描かれる。妻への思いが、妄想を生み出し、精神に異常を来していたのだ。ブルースはかつて陥れた親友にビデオレターを残し、一人首をつる準備をする。たまたま、思いを寄せていた金髪の女が、散歩の途中で寄りたいと留守電を入れていたが、ブルースは気がつかなかった。そして首に巻き付けて、今にもいすを蹴る寸前で、女の影が玄関に。しかし時すでに遅し、女は留守だと思い消えていき、いすは崩れてブルースは首をつって「THE END」の文字がでてエンディング。

いやぁ、最初から最後まで一気に見せてくれる傑作だった。おもいろいし、どこか切ないラストに胸が熱くなってしまった。少々、下品かもしれないけれど、最高の映画でした。