くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「雁の寺」

kurawan2014-10-01

川島雄三監督作品を見に出かけた。原作は水上勉である。これがなかなかの名編であった。

川島雄三監督というと、絶妙のテンポで物語を運んでいく。そのどこかしこに漂う独特の知的なユーモアが魅力なのだが、なんとも、今回の作品は、かなりのブラックユーモアの世界である。しかも、独特のカメラアングルが、とにかくシュールなのだ。そして、映像も実に美しい。この不思議なコラボレーションがオリジナリティあふれるムードを醸し出しているのだ。

便所のくみ取り口の中から、くみ取りをしている小坊主の姿を見据えてみたり、仏像の背後から若尾文子を見下ろしてみたり、畳の高さより低い位置から、布団で寝ている中村鴈治郎を見上げてみたり、塔婆をもって、鳶をはらう場面など、思わず笑ってしまうのだが、このアイロニー満点の演出が心憎いのである。

一方で、人物の配置、寺の中の様子、雪景色、京都の町並みなどを美しい構図でとらえていくカメラが、対象的に物語に厚みを与え、作品の格調を高める。もちろん、西岡義信の美術セットの美しさも最大の効果をあげているのだろう。

にもかかわらず、描く物語は、女をかこって、好き放題に生活をする生臭坊主の姿なのだから、何とも風刺が効いているのだ。

犬猫のように自分を扱われる小坊主の慈念は、日頃の恨み辛みがつのって、その寺の住職で、女と酒におぼれる慈海を雨の日に殺してしまう。そして、たまたま起こった葬儀の棺の中に隠し、そのまま埋めてしまうのである。

雨の日の殺人シーンも、実際には慈念が行ったのかどうか、見せる画面はない。前後の映像で推測されるのである。

映像芸術の美しさ、川島雄三のカメラ視点、笑い飛ばすような風刺の効いた演出、おそらく水上勉の原作とは、一風変わったオリジナリティを生み出しているものと思われるから、なかなかの名編だと思えてしまう。

エピローグは、現代の雁の寺の様子がカラーで描かれ、観光客が詰めかける様子でエンディング。このおふざけも川島雄三の世界観である。みごと。