くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「仁義なき戦い」「ゴーン・ガール」

kurawan2014-12-16

仁義なき戦い
新世界の日劇会館で全五部作一気見して以来のスクリーン鑑賞。しかも菅原文太さんが亡くなった直後で、TOHOの大スクリーンで見直すことができた。

さすがに、この映画は唯一無二の傑作である。手持ちカメラのワーキングとはこういうものだと見せつける迫力、さらに、クローズアップ、ゲリラ撮影など、おそらく二度と実現しない映像の醍醐味を満喫できる。

冒頭の原爆の写真から、主人公たちが、闇市の雑踏の中での紹介。やがて、やくざ組織に所属する主人公たちが、次第に義理も人情もない近代やくざの世界で抗争の渦中に入り込んでいく。

カメラを縦横無尽に傾けた構図、ストップモーション、超クローズアップ、暑苦しくなるほどに寄ったカメラ、図太く響く菅原文太松方弘樹らの声、どれもが、二度と実現しない迫力である。

初めて菅原文太が「わしがやっちゃろうか」と登場するシーンからラストシーン「山森さんよ、たまはまだのこっちょるけん」といって葬儀場を後にするラストシーンまで、恐ろしい熱気と迫力である。

これこそ、今の若手が勉強するに値する傑作中の傑作である。全く何度見ても飽きない。見事。


ゴーン・ガール
ヒッチコックならもっとシンプルにおもしろおかしく作っただろうに、デヴィッド・フィンチャーは、なんでまたここまで複雑にはめ込んで作るのだろう。いや、ヒッチコックの時代のようなシンプルさは現代では通用しないのかもしれないけれど。

サスペンスミステリー映画としては、近年見たうちでは白眉の傑作であると思う。ストーリーの組立、謎が謎を呼ぶ展開、次々とひっくり返っていく物語と、意外な展開から生み出されるラストシーンまで、さすがに、このレベルの映画を作れるのは限られているだろうと思う。しかし、やりすぎている部分と、懲りすぎたために、なおざりにされた部分も多々あった。

さて、ラストのネタバレからはいるので、気になる方は読まないでほしい。

ラストの謎、なぜ、血だらけになって帰ってきたエイミーは、体を洗おうともせずに、警察の事情聴取をうけ、さらに、ニックと一緒に家に帰ってきて初めてシャワーで体を流すのか?

エイミーが夫と前向きにやり直すという記者会見のシーンの合間に、台所らしいところで、ニックが、しゃがんで泣いているゴー(双子の妹のマーゴットだろう)に「なぜあんなことをしたんだ」と詰め寄っている。この意味は?

もう一転、エイミーが語る供述に矛盾があることを薄々知っているボニー刑事は、いくらFBIだからと全くFBIに意見できず、FBIもエイミーの言うままに信じるほどバカなのはなぜ?

映画はのどかな住宅街、川縁にたたずむ一人の男ニック、平坦な映像で続く彼の姿。家に帰ってみると、妻のエイミーがいない。居間が荒らされている様子から警察に連絡、ボニー刑事がやってくるが、一目で、これは異常だと見抜き、記者会見により大々的に捜索すべきと提案。

エイミーの両親はボランティアの捜索組織を組み、ネットでも呼びかける。なんとも、アメリカという国はある意味異常である。

失踪してから一日一日と日がたつが、マスコミは、事件をおもしろおかしく中傷し、話題にしていく。そして、ニックは最低の夫というレッテルと殺人の容疑が掛かり始める。

近くには、ニックの双子の妹マーゴがいる。彼女と一緒にエイミーを捜すが、じつはニックには教え子の愛人がいた。

どんどん物語が膨らみ、ニックの周りが喧噪を増してくると、画面は、失踪したと見せかけ、実は隠れているエイミーの方に移る。真相は、ニックが愛人とキスしているところを見たエイミーが、周到な計画でニックを殺人者にし、死刑に持っていく計画だったのである。しかも、彼女にはそういう形で男を貶めた過去が見えてくる。実はエイミーこそが、サイコパスだったのだ。

ことの真相が見えてきたニックは、こういう事件が得意の敏腕弁護士ターナーを雇う。

しかし、エイミーは潜伏先で親しくなった女に手持ちの金を奪われ、にっちもさっちもいかなくなって、かつて自分を束縛しようとした男デジーに連絡を取る。

ジーは監視カメラに取り囲まれた豪華な別荘に彼女を住まわせるが、何とか逃げ出そうとするエイミーは、まるで暴力で毎晩レイプされていたことにいて、カメラ映像を偽装した上で、ある日、カッターナイフでデジーの首を切り裂き逃げ出す。

そして血だらけになったまま、ニックの元に返ってくるエイミー。失踪はデジーに拉致されていたためだと告白する一方で、ニックを陥れるために偽装していた日記のままの夫婦生活だったことをニックに強要させ、ニックとエイミーは理想の夫婦として歩みだそうと記者会見する。

しかし、真相を知るニックの複雑な心境と、矛盾に気がついているボニー刑事、さらに、敏腕弁護士ターナーはこのまま、ことの成り行きを静観、映画は終わるのである。

非常に複雑な上に、登場人物がてんこ盛りででてくる。いかにも切れ者のボニー刑事、見事な画策で依頼人を守るターナー、常にニックの傍らにいて、一心同体のような不可思議な双子の妹、などなど、どれを中心にして、どれを脇にしても成り立つほど、それぞれがおもしろいキャラクターなのだ。

しかも、エイミーは、天才的な頭脳で犯罪を計画し遂行するサイコパスであり、潜伏先で金を奪う女もちょっとおもしろい。

導入部の静かな映像から、中盤、次々とニックが不利になっていく騒々しい展開、さらに、エイミーがピンチになると言うさらなる展開から、一気にラストシーンへいくようで実はもう一つエイミーが犯罪を起こす終盤、そして、第三者的にはハッピーエンドだが、関係者にはアンハッピーなエピローグ。ここまで懲りすぎると、ストレートに謎解きを楽しめなくなってしまう。原作があるので、削りたくないエピソードをすべて詰め込んだのだろうが、思い切ったスリムさも映像化するには必要だったかもしれない。

とはいっても、さすがに、ラストシーンまで目が離せないほどおもしろいし、充実感満点で映画館をでることができる。これは才能だろうなと思うのです。正直、おもしろかった。