くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「太陽の子 てだのふあ」「夢千代日記」

kurawan2015-10-29

「太陽の子 てだのふあ」
独立系映画らしいメッセージ性の高い作品ですが、しっかりと真正面に捉えるドラマ性の迫力は、やはり浦山桐郎作品である。児童文学ながら沖縄戦線を盛り込んだ灰谷健次郎の原作を音に描かれた作品で、当時の評価は高いが、ある意味、時代ゆえの評価と呼べなくもないと思う。

沖縄戦の悲劇がトラウマになり、時折錯乱状態を起こす父を持つ主人公のふーちゃんの目を通して、沖縄戦線から戦後、本土の人間の沖縄人への差別意識、沖縄人が経験した悲劇など様々な物語をドラマ性豊かに綴っていく。

舞台は神戸、沖縄料理の店“てだのふあ”を営む母の元で、素直に育った少女ふーちゃん。近所の人たちからも、さらに神戸に移り住んでいる沖縄人からも慕われる小学生。大人になるにつれ、見えてくる周囲の人々の姿がストレートな映像で語られる。

かなり素人っぽい演技だが、その素人さゆえに、返ってリアリティというか素直なメッセージが見えてくる。

内地の人間が抱く沖縄人への差別意識や、終戦まじかの沖縄戦での日本人の沖縄に対する意識が、これほどのことだったのかと思わせる内容が盛りたくさんに描かれた、悪く言うと一方的にさえ思われるが、これも歴史の史実の一つの視線だろうと思います。その意味で、この作品の意義は重要ではあると思うし、メッセージ性が強いとはいえ、当時の評価、浦山桐郎監督の力量は認めるべき一本だと思います。見る価値のある一本でした。


夢千代日記
浦山桐郎監督の遺作である。
NHKの大ヒットテレビシリーズの完結編という位置付けの作品で、決して出来栄えはいいものではないが、早坂暁の脚本と、井川徳道の美術はなかなかのもので、手を抜かない浦山桐郎監督の演出ゆえか、ただのテレビドラマの延長に終わっていないのはさすがである。

原爆症で余命いくばくもない主人公夢千代が、神戸の病院で診察を受けているシーンに映画は始まる。湯村温泉に戻る汽車の中で、余部鉄橋に差し掛かった時に、窓の外に身を投げる女性を目撃、たまたま、同じく目撃した宗方という男とのほのかな恋物語が根底に流れる。

一方で、彼女の元にいる温泉芸者たちの様々なエピソードを挟み込む流れは、おそらくテレビドラマのダイジェスト的なところもあるのだが、夢千代の話からぶれないようにしっかりと演出していく浦山監督の手腕が、テレビドラマを知らない私にも2時間ほどの作品なのに決して飽きさせなく見せてくれる。

決して名作というレベルの仕上がりではないにせよ、素直に感動し、まぶたが熱くなるラストシーンは美しい。桜満開の中、踊る夢千代の姿がオーバーラップし、暗闇の中での舞からエンディング。今の適当な映画よりはずっとしっかり作られた一本だったと思います。