「犬を連れた女」
ダミアン・マニベル監督の短編で、部屋の中に、主人公のレミと黒人の太った女、そして年老いた黒い犬を配置して展開する会話劇。
二階に犬が登るくだりなど、どこかミステリアスな空気もあるが、特に何というものもなく、レミが家を出てエンディング。どうということはないが、二人の関係、犬の存在がミステリアスで面白い一本でした。
「若き詩人」
シナリオもなく、ただひたすら主人公で詩人のレミの姿を追いかけていく作品で、決して面白いというものではないが、しっかりとした構図で繰り返されるような物語は、ちょっとしたオリジナリティを感じさせます。監督はダミアン・マニベル。この作品が長編第1作で、ロカルノ映画祭で国際映画特別大賞を受賞している。
海を見下ろす道の際にあるベンチに座る主人公レミは、詩を書く題材探すためにここにやってきた。しかし、街のあちこちを歩くも、これという閃きを感じず、歩き回ってはこのベンチの場所に戻り悩むのを繰り返す映像になっています。
道を、こちらから画面奥に縦に捉える構図を多用し、画面の隅に人物を配置した映像作りがちょっと美しい。
特に起承転結があるわけではなく、そのまま、ベンチに横になりエンディング。
透き通るような景色と、夜間のセピア調の色彩が美しい。見逃したからどうというものではないのですが、ちょっと見てもいいかなという一本でした。
「陽気な巴里っ子」
これは面白かった。エルンスト・ルビッチならではのテンポの良い展開が最大限に生かされた傑作でした。
物語は道を挟んで住んでいる医者夫婦とダンサー夫婦二組の夫婦の、丁々発止の浮気ドラマを、嘘が嘘を産んで、入れ替わり立ち替わり巧みに交わす様をハイテンポに描いていく。
その脚本の組み立てのうまさもさることながら、嘘が真実に変わり、真実が嘘に変わり、ばれたかと思いきや、偶然が生み出す事件がピンチを救う。思わず苦笑しながらも微笑ましく見てしまう二組の夫婦恋物語が最高。
導入日の窓際の物語から、次第にお互いが行き来し、さらに外で会うようになり、でも結局元の鞘に収まる。
ラスト、結局、濡れ衣を着たまま、三日間の監獄に入る男と、なぜか罪を免れて意気揚々と妻の前に立つも、所詮、あなたは私にとっては結婚のツマよと言われて、体が小さくなる特撮なども取り入れるところに思わず笑いがこみ上げる。
うまいとしか言いようのない、エルンスト ・ルビッチのタッチに唸ってしまうハートフルコメディの傑作でした。
「極楽特急」
これもまた傑作。ポンポンと軽快なリズムを繰り返しながら、次々と物語が流れていく様は、天才的と言えます。まさにエルンスト・ルビッチタッチの極みとはこのことでしょう。
オープニング、ゴミを集めて船に乗り、歌を歌って男が消えていく。カメラがティルトアップすると、部屋の中一人の男が倒れている。ゆっくり外をカメラが縫っていくと別の部屋の場面。ガストンとリリーの二人の泥棒が出会い、コレ夫人の宝石を盗もうとするもいつの間にか、ガストンはこれ夫人のハートまで盗んでしまい、一方のリリーとの恋も芽生えていく。
本編の物語が流れる傍で、冒頭の強盗事件の真相がちらほら見え隠れする。隅々まで行き渡ったエピソードと会話の伏線、テンポよく繰り返す軽快な会話劇。どこをとっても寸分の隙もない作劇の話術に酔ってしまいます。
軽いタッチの話なのに、一時も目を離せない無駄のなさは、まさしく職人芸の極みでしょうか。これほど完成度が高いのも、そうたくさんないのですが、あくまで娯楽に徹した映画として存在しているのがすごい。これが本来の映画の姿でしょう。