くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「星ガ丘ワンダーランド」「エスコバル 楽園の掟」

kurawan2016-03-15

星ガ丘ワンダーランド
それほど期待していなかったのですが、ちょっと素敵な映画でした。幻想と現実、過去と現代を組み合わせたファンタジックな映像作りで描くある家族の物語。決して、傑作とは言わないまでも、どこか心に残る佳作というイメージの一本です。監督は柳沢翔

雪深い道を一台の車が走っている。中に乗っているのはいかにも冷めたような夫婦と幼い兄弟。夫が妻を責めている。「温人がけがをしたのはお前のせいだ」
そして妻は車を出て一人歩き始める。その後を追いかける弟の温人。落とした片方の手袋を、取りに来るからと預ける母。

物語は、単線が走る星ガ丘駅の落し物預かり所。受付をしているのは、成人になった温人。あずけに来たものに落とし主を予想したイラストを描いて保管している。このファンタジックなオープニングはまるで童話のようである。

近くに星ガ丘ワンダーランドというのがかつて賑わった遊園地がある。その観覧車から一人の女性が落ちて死んだ。自殺らしいと警察は片付けるが、実はこのじょせいは温人のははだった。こうして本編が幕をあけるのだが、ファンタジーとリアルな家族の物語が絡む半端さは別として、母がのちに結婚した先の娘が、スノーボールがついたキーホルダーを落し物コーナーに取りに来るところから物語があちこちでつながり始める。

幼い兄弟がこの落し物コーナーにあるジオラマを壊したりするエピソード、観覧車のイルミネーションが売りだった遊園地、かつて温人たちが家族で遊びに行った時、下で待つ母を見下ろす温人たちのカット、そこにかぶる、母に好意を寄せていた男性と娘のカット、そして、観覧車を降りた温人が母の元に駆け寄るカットなど、様々な映像が次第に一つになる。

母に好意を持っていた男性が連れていた娘が、落し物コーナーにキーホルダーを取りに来た娘で、幼い温人が母に駆け寄ろうとして階段から落ちてけがをした。その時母は、彼女に想いを寄せる男性と談笑していた。これが冒頭の父が責めた理由だとわかる。
終盤、ジオラマを壊した兄弟の弟が階段を落ちそうになり、助けようと身を乗り出した母が観覧車から落ちて死んだと警察で供述。母は兄の借金を肩代わりしてあげると兄を呼び出し、遊園地に出かけた。

温人が兄の工場を尋ねる。そこには、父が書いた観覧車の設計図。ワンダーランドへ行くと、兄が電気装置をいじり、イルミネーションを灯す。まるで花火のように山の頂に浮かび上がる観覧車の明かりがとにかく美しい。母への想いを込めた兄のいたずら、なんとも言えない郷愁が漂うこのシーンが良い。冒頭の車の場面の彼方には、この観覧車が 見えていたというのが設定も明らかになる。

ギクシャクしていた母の新しい家族の姉と弟もどこか仲直りし、まとまりを見せる。すべてが懐かしい思い出のような温人のアップでエンディング。美しさと、胸にしみる感覚が覆ってくるラストが良い。

決して一級品ではない。でも素敵な一本だった気がする。そういう作品でした。


エスコバル 楽園の掟」
南米コロンビアで、表の顔は慈善事業家、裏の顔は麻薬王パブロ・エスコバルに関わった一人の青年ニックの運命を描くドラマである。主演はジョシュ・ハッチャーソン演じるニックなのだが、さすがにパブロを演じたベニチオ・デル・トロのキャラクターが濃すぎて、本来のストーリーがぼやけてしまった感じがする映画でした。監督はアンドレア・ディ・ステファノという人です。

物語は、パブロ・エスコバルが一人、神に向かって、明日投降すると祈る場面に始まる。

カットが変わると、主人公ニックと恋人マリアが旅立つ支度をしている部屋、ニックは呼び出され目隠しされてとある場所へ、そこでマリアの叔父のパブロからトラックに荷物を積んで運び、手筈をつけてくれた農民は、仕事の後射殺しろと送り出す。そして数年前に戻る。

カナダからコロンビアに兄ディランとやってきたニック、荷物を運ぶのにトラックを探していて慈善事業家の叔父パブロの手伝いをしているマリアと知り合う。そして二人は恋に落ちるが、あまりにも豪勢な暮らしのパブロの姿に違和感を持ち始めるニック。マリアに聞けば、普通に叔父はコカインを扱っているのだという。しかも、ニックが街のゴロツキに絡まれたと知ったパブロは、そのゴロツキを生きたまま焼いたのだ。もちろん、証拠はないが明らかにパブロの仕業だと知るニックは、ここから去ろうと考え始める。

しかし、家族だ、身内だと信頼を寄せるパブロに、どんどんその世界に引きづりこまれていくニック。しかし、このくだりがどうも弱い。

マリアも、叔父の仕事の非情さに恐怖を覚え、ニックと去る決意をする。しかし、そこへ、ニックは呼び出され、冒頭のシーンへつながり、パブロに荷物の輸送を命じられるのだ。それはパブロが蓄えた莫大な遺産を隠蔽するものだった。

マリアは叔父がコカインを扱っていることを普通のことのごとく説明するのに、叔父を恐れはじめるというのがどうもよくわかりづらい。この辺りの彼女の描写もちょっとぼやけている気がするのです。

ところが、パブロは、輸送に加わった人たちを次々と殺しているのがわかり、ニックも危険を感じ逃げることを考える。しかも、兄のディランさえも殺される。

ニックは、軍隊や警察まで使って追ってくるパブロから必死で逃げ、マリアと待ち合わせた教会へたどり着くが、途中で打たれ傷を負う。そして、マリアの叫びも通じず、追っ手が迫る中息を引き取る。この後、ニックがディランと楽しげにコロンビアにやってくるシーンがかぶるのだが、これが余計に物語をぼやけさせるのである。

一体、コロンビアで悲劇にあったニックの話なのか、巨大な組織で家族を守ろうとしたパブロ・エスコバルの話なのか、と戸惑うのである。

丁寧な演出で描くシリアスなストーリーの面白さは観るべき作品ですが、脚本の構成がやや視点がまとまっていないのが難点ではないかなと思う一本でした。しかし、ベニチオ・デル・トロの存在感はすごいですね。