くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「光りの墓」「スポットライト 世紀のスクープ」「さざなみ

kurawan2016-04-20

「光りの墓」
地味な映画です。退屈かそうでないかと言われれば退屈な映画です。監督はアピチャッポン・ウィーラセタクン。前作は全くわけのわからないままで感性の映画だと思いましたが、今回も、そういう感じの感想です。映像が映されるままに感じ取る映画という感じでした。

タイのある村、学校だった場所にある病院には、眠り病という眠ったままの人たちが収容されている。そこへやってきた足の悪いジェンは、彼らの世話おするようになるが、その病院にはケンという、患者と心の交信ができる女性がいた。

物語はジェンがケンを通じて、息子のイットと話したりするストーリーになるが、実はこの病院は昔、王様の墓だったと知る。

ジェンが世話をしていた青年は目を覚ますのですが、時として突然眠って、また病院に来る。ジェンはこの青年と交信するケンを通じて、イットと話し、宮殿を案内してもらったりする。とにかくセリフだけで語られる感じで、動かないシーンは据え置いたカメラが延々と二人を捉える。外では政府の秘密の計画が進み何かを掘り返している。

静かに淡々と進む物語は、終盤、広場で健康ダンスをする人々のシーンになり、音楽も陽気なテンポ良いものに変わり、みんなで踊ってエンディングなのだが、つまりはどういうことなのかと言われれば、ただこの展開のリズム感を感性で感じて楽しむ映画という感じである。これがオリジナリティと言われればそういうことだし、どこか凡作とは違うという感想になるのは、果たして本当に自分が理解しての上なのかは不明。まぁ、これも映画の一つの表現だと思います。


スポットライト 世紀のスクープ
アカデミー賞の作品賞、脚本賞を受賞した話題作である。実話を基にした物語とはいえ、二時間あまり緊張が途切れないみごとな構成の脚本にまず頭がさがる。しかも、登場人物それぞれに個別の顔を作らずに、あくまでスポットライトという新聞の記事をまとめるために一丸となる人々の姿を描いていく演出は素晴らしい。監督はトム・マッカーシーである。
物語は、1967年、ボストンで神父による性的虐待事件が起こり、それを解決するために警察署にやってきた弁護士の姿が描かれ、画面が変わると2001年、グローブ紙の編集局長にロビーが就任するところから始まる。

新しい編集長がやってきて、彼の指示で、カトリック教会の神父が、幼児虐待を行っていたという事実を暴露するための行動を起こすという提案が出る。教会というものが絶対とされる西洋社会で、神父を告訴するなどということは論外の出来事なのだが、あえて臨むというものだった。

しかし、ロビーを中心に、調べ始めた記者たちは、過去に起こった様々な事件が全て不問のまま消えている事実を目の当たりにする。そして実際に犯罪を犯した神父が13人はいると調べ始めるが、それはほんの一部と判明。

さらに、90名近くがボストンだけでもいることが明らかになってくるにつけて、ロビーたちは、教会全体の犯罪を暴くために、大規模な情報収集を開始、時に9・11の同時テロ事件も起こる中、ついに、ロビーたちは、記事を新聞にする。

実話ゆえに、曲げたところはないのだが、延々と長回しするカメラワークから畳み掛けるカットの積み重ねで見せる映像は見事に緊張感を生み出し、次々と暴かれる事実と、証言が紡ぎ出す犯罪の実態が明らかになる下は素晴らしい出来栄えになっている。

もちろん、そのテーマ性ゆえに賞を取ったという部分もあるだろうが、映画としての完成度は見事なものである。見ごたえのある充実感満載の一本でした。


「さざなみ」
主演のシャーロット・ランプリングの演技が話題になっている映画を見てきました。静かな映像で淡々と流れるストーリーで、その中に、次第に心にさざなみが起こってくる一人の女性の物語が、ほとんど演技のみで描かれる様は見応え十分な一本でした。監督はアンドリュー・ヘイです。

朝方、犬を散歩させている主人公ケイトのシーンから映画が幕をあける。夫ジェフとイギリスで暮らす彼らも、今度の土曜日が結婚45周年で、パーティを予定している。ところが帰ってみると、ジェフが、ある手紙をケイトに話し始める。スイスで、一人の女性が氷河の中から発見され、その身元確認をして欲しいという内容なのだ。そして、ジェフは執拗にその女性のことを話す。その女性は、ジェフがケイトと知り合う前、山で死んだ人で、ジェフの元恋人カチャなのだ。そして、スイスに行けないものかと話す。

45年以上前のことで、気にかけるまでもないはずなのに、どこかケイトの心の中に、一種の夫への不信が生まれ始める。

火曜日、水曜日と物語が進んでいき、ジェフが、夜中に屋根裏でカチャの写真を探していたり、一人で街に行って、スイス行きの旅行の相談をしているそぶりを見たりして、次第にケイトの心を乱す割合が増していく様を描く。

ケイトが屋根裏で見つけたスライド写真には、なんとカチャのお腹が大きい写真を見つけ、ケイトの不信は最大になる。

やがて、土曜日のパーティ。結婚式の時の曲に合わせて二人は踊るが、踊り終わって、振りほどくように手を離すケイト、そして彼女のなんとも言えない表情で暗転エンディングとなる。

朝もやの中、犬を散歩させるケイトのシーンが二度続き、金曜にはジェフと散歩をさせるシーンになるも、妙に、素っ気ないケイトの仕草が印象的。静かに流れる景色の一方で、荒れ狂ってくるケイトの心の描写が見事な秀作でした。