くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「神聖なる一族24人の娘たち」「92歳のパリジェンヌ」「ジュ

kurawan2016-11-07

「神聖なる一族24人の娘たち」
なんと感想を書けばいいのかわからない映画です。ロシア映画で、描かれたのはロシアの辺境マリ・エル共和国の女性の物語。独特の宗教観と世界観を持つ彼らの姿をフィクションというよりドキュメンタリーのごとくストレートに描いて行く。監督はアレクセイ・フェドルチェンコという人です。

一人の女性が、野原で神様に捧げものをして、自分のホクロを消してくれるように祈るシーンから映画が始まる。そして、このエピソードがさらりと終わると次の女性の名前とエピソードがまた語られ、二十四人の娘たちの性と生き方が順番に描かれていきます。

ある意味非常に素朴で、妙な艶やかさもいやらしさもない、いかにもドライな感じで描かれて行く。

見ていると、とても特異なものですが、画面の色彩演出が本当に上品で落ち着いているので、見ていて、癒されてしまう。

二十四人すべてのエピソードが短い単位で語り終わり、最後にそれぞれの娘たちが民族衣装に身をまとい、その衣装にあった背景の前に立って微笑む姿を一人一人写してエンディング。なるほど、こういう映画もあるのだなぁと思うと、これがこの監督の個性であり、これがこの映画の創造性なのだろうと感じてしまうのです。


「92歳のパリジェンヌ」
尊厳死を扱った映画であるが、ありきたりではなくて、非常に丁寧に、生きるということ、死ということを捉えている点では好感の一本でした。監督はパスカル・プザドゥーという人です。

主人公マドレーヌが車の運転をしている場面から映画が始まる。飛び出して来た男を引きそうになり、そのままパニックになって運転できなくなる。家に帰ればちょっとしたことが次々とできなくなる。

そんな彼女の現在を細かいカット編集で見せて、誕生日のシーンへ。子供たちが集う中で、彼女は2ヶ月後に死ぬと宣言する。それもスイスとかへ行くのではなく、自殺するつもりだということである。

当然、周りは困惑するし、おかしくなったのだと、病院へ入院させようとしたりするが、頑として意思を曲げない。やがて娘のディアーヌがマドレーヌの気持ちを汲んでいやり、共に、行動し始める。

ベッドでおねしょをし、トイレで倒れ、一触即発の事故を起こし入院。しかしディアーヌは彼女の気持ちを察して連れ出し、やがて彼女が決意した死の日を迎える。

若い頃からさまざまな活動家であった彼女の姿が挿入されたり、母の死の決意を受け入れることの迷いから悪夢を見るディアーヌのカットなど、映画としての演出も見られ、作品としてもそれなりに出来上がっている。

フランスの元首相の母親の実話をもとにしたものであるが、映画作品として考えさせられるところもあった一本でした。


ジュリエッタ
ペドロ・アルモドバル監督作品らしく、画面の至るとことに真っ赤が存在する。濃厚な母と娘の物語ですが、いつものような胸焼けするほどの重圧感がわずかに物足りない感じの一本でした。

真っ赤な服のアップから映画が始まる。まさにアルモドバル映画の幕開けである。カメラが少し引くと、それは手の袖であって、シュールなオブジェを包む手のアップなのだ。主人公ジュリエッタは荷造りをしてこれから恋人のロレンソとマドリードを出ようとしていた。

学校で教鞭をとる彼女は帰り道、娘 アンティアの親友のベアと出会う。実はアンティアは12年間行方不明なのだ。ベアはアンティアと最近会ったという。忘れかけていた娘のことを思い出したジュリエッタは引っ越すことをやめマドリードに残り、アンティアに宛ててこれまでを振り返った手紙を書き始める。

こうして物語は、若き日のジュリエッタがアンティアの父親でかつての夫ショアンとの出会いを思い出し語り始めるのが本編となる。

若き日のジュリエッタは列車の中で向かいに座った男性と話したくないために食堂車へ行き、そこでショアンと出会う。ショアンの妻は5年間昏睡状態だという。向かいに座っていた男性が飛び降り自殺をし、一気にショアンと親しくなったジュリエッタはやがてショアンと生活を始める。ショアンにはアバというオブジェを製作している女性の愛人もいるようだった。

漁師をしているショアンと生活を始めるジュリエッタ。やがてアンティアが生まれる。ジュリエッタの父親にも愛人がいて、母は病床で寝たきりであった。

物語はアンティがベアと知り合うきっかけや、ショアンの死で精神的などん底になるジュリエッタの姿。そしてアンティアとベアが彼女を立ち直らせる物語が描かれる。

さらにアバの死をきっかけにロレンソと出会い、一方のアンティアは突然ピレネーへ瞑想に行くと旅立つものの、実はさらに別のところに移り行方不明になってしまう。アンティアを失ったジュリエッタは再び不安定になったのだが、時の流れで、落ち着いて行く。

ジュリエッタはベアと再会したことでマドリードに残ったのだが、やがて戻って来たロレンソと再会、そこへアンティアからの手紙が届く、彼女はスイスにいるという。希望が見えたジュリエッタはロレンソと共にアンティの元に車で走って行くシーンでエンディング。

全編赤を基調にした画面作りと、カラフルな色彩演出はペドロ・アルモドバル作品らしい様相と、どこか不気味なカメラワークも健在。母と娘の不思議な絆と確執が微妙に描かれるサスペンスはやはり見事である。しかし、いつもの濃厚感を感じなかった。だからと言って失敗作とは言いませんが、やはりアルモドバル映画には変わりはありません。