くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ライフ・イズ・ビューティフル」「はじまりへの旅」「楊貴

kurawan2017-04-03

ライフ・イズ・ビューティフル
イタリア映画らしい軽快な陽気さの中に、切ないほどの哀愁を盛り込んだ名作らしい名作。画面の色彩演出の美しさは、センスがなせる技だろうが、物語の構成配分が実にうまいので、前半のコミカルな展開が後半一気に辛辣なものになるものの、そこに前半のペーソスを崩さずに忍び込ませているストーリーが抜群。監督は喜劇俳優でもあるロベルト・ベニーニです。

主人公グイドが友人と街に遊びにやってくるが、そこで一人の女性ドーラと出会う。前半はグイドからドーラへのコミカルながら執拗に迫る恋のアプローチ。スラップスティックコメディのようなテンポで次々と展開するリズム感にどんどん引き込まれて、このままラブストーリーかと思いきや、所々に第二次大戦のナチスの侵攻がさりげなく挿入されている。前半終了あたりでグイドがとうとうドーラへの想いを遂げて温室の中に入り、出てきたのは息子。一気に数年の時が流れる。

後半は、いきなりナチスユダヤ人迫害に会い、グイドたち家族が収容所へ収監される。しかし息子にとにかく明るく道化で振る舞うグイドの痛々しいほどの明るさが物語をどんどん切ないものへと変えていく。

これはゲームだから、ルールをしっかり守らないといけないと息子に言い聞かせるグイド。そして、チャンスを見つけては息子を守り、ドーラを探す。やがて、戦争が終わり、最後の殺戮が行われる前に息子を隠すのだが、すんでのところでグイドは見つかり、ドイツ兵に殺ろされる。

夜が明けて、ドイツ兵が去った後でてきた息子は、やってきたアメリカの戦車を見て、ゲームの勝者だと歓喜するところがなんとも悲しい。そして母と再会、これが父の物語ですと息子のセリフで映画が終わる。

画面作りの美しさと、軽快なテンポの中に埋め込んだあるユダヤ人家族の悲しくも、胸が熱くなるヒューマンドラマの名作。本当に心に残る名編でした。


「はじまりへの旅」
確かに、少し変わったシチュエーションから映画の面白さを楽しめるかと思ったのですが、どこかちぐはぐに見えるストーリーのリズム感が気になる映画でした。徹底しているようで抜けた状態が気にかかってしまう映画。何か意図があるのかもしれませんが見えなかった。監督はマット・ロス

鹿のアップ、突然飛び出してくる若者が鹿を素手で射止める。集まってきたのは森で暮らすベンを父にする6人こ子供達。世間から離れ、独自の教育方針で育つ彼らは、頭も体力も一流。

ある日、町の病院にいた母レスリーが自殺したことでニューメキシコまで葬儀に行くことになる。今まで本でしか知らない世界に飛び出す家族が繰り広げるロードムービーのはずが、いきなりスーパーに入って巧みに品物をかっぱらう。このエピソードだけが全く全体の中でふに落ちないままラストまで行くのである。ベンの教育方針は理想なのではないかというのと矛盾する。

そして、着いてみれば、レスリーの遺言は火葬で歌を歌って欲しいと言っていたからと葬儀場に飛び入り、祖父と諍いになる。

結局、今ひとつ、解決するようにうまく流れずに、なぜかベンの家族は一旦はバラバラになったかに見えたが、再びまとまり、母の遺体を墓から掘り出して、浜辺で火葬して、また森に入り、生活を始める。ただ、大学に行きたいと黙って大学の入試に受かった息子は旅立って行く。

なんか、一貫性が見えないのは私だけでしょうか?確かにレスリーの体を治すために森に入ったと言っているのですが、でもあの盗みの場面がやはり引っかかる。要するに変人のベンの話だったのではないかとさえ覚えてしまう違和感をぬぐい去れなかった。


楊貴妃」(溝口健二監督版)
溝口健二監督作品は出来の良し悪しが大きいが、この作品はどちらかというと凡作の方でした。でも、珍品という意味では見る意味十分ありました。

物語は、中国の唐の時代、国を危うくした絶世の美女楊貴妃の物語ですが、カメラワークにせよ、人物描写にせよ、それほど秀でたものも見られない。やはり中国合作という足かせが効いているのかもしれませんね。

楊貴妃亡き後の皇帝の嘆きのシーンからはじまり、遡って、楊貴妃が宮廷に上がり、やがて国を揺るがすまでに至る話だが、皇帝に寵愛されてから、国民の反感を買い始めるあたりの物語の描写が実に弱いため、ストーリーが雑に見えてしまう。

じっくりと作られたという迫力の感じられない作品で、そこが物足りない。溝口健二監督作品だから見たという一本でした。