くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「台北ストーリー」「ワッサ」「テーマ 田舎の出会い」「白

kurawan2017-05-29

台北ストーリー」(デジタルマスター)
時代が変わりつつある台北を舞台に描かれる一組の夫婦の物語。端正な映像で淡々と語られる物語には、不思議なくらいの空気が漂う。これがエドワード・ヤン監督の世界である。

アパートの一室を見にきたアリョンとアジンの夫婦。アジンはキャリアウーマンで、間も無く昇進するから支払いは大丈夫だというが、間も無く会社が買収されてしまう。

一方のアリョンはかつてはリトルリーグでならしたピッチャーだが、その夢は諦め家業を継いでいる。

アジンは起死回生のためにアメリカに行こうとするが、アリョンはなかなか踏ん切れない中で、二人の間に蘇ってくる父の物語や若き日の様々な出来事。それらが、何気なく隙間風になってくる展開を、画面を区切ったドアの間や、エレベーター、部屋の配置などを使って画面演出して行くのが実にうまい。

ラストはどうしようもなく二人は離婚してしまうのではないかという余韻の中で、アリョンはつけてきた若者に腹を刺され救急車で搬送されて行く。アジンには新しい仕事のおオファーが入ってくる

変化する台北とその流れに乗り始める人々の姿が本当に静かな時間の流れとして描かれる様はまさに絶品の域である
2時間、このドラマで見せるエドワード・ヤンの実力に改めて脱帽する一本でした。


「ワッサ」
画面が豪華絢爛に美しい。置かれている調度品の本物感と画面全体から伝わる空気がいかにも貴族の世界というイメージで迫ってきます。監督はグレープ・パンフィーロフという人です。

巨大な船が燃えているシーンからのオープニングにまず引き込まれます。そして物語は貴族であるワッサ・ジェレズノーワの夫が少女を強姦したとして事件を起こすところから物語が始まる。家の名誉のために夫に自殺を供与するワッサの言動からして異常なのですが、貴族の頽廃と滅び行く階級の末路を見せつけるようで、ある意味恐ろしい。

未婚の娘たちのために名誉を重んじ、そのために、跡取りになるであろう孫の男子を取り上げるワッサの行動もまた異常な世界観である。しかし、こと半ばにして彼女もまた死を迎え、その財産を狙う後見人や使用人が最後は醜い争いをする。

ワッサの死を知った娘が気を失って映画は暗転しますが、冒頭のシーンと同じアングルで、真新しい船が航行して行く姿で、時代の変化を描写してエンディング。

二時間を超える大作ですが、しっかりとしたストーリー構成と画面作りの丁寧さが光る一本でモスクワ映画祭グランプリが納得できる作品でした。


「テーマ 田舎の出会い」
ベルリン映画祭金熊賞受賞作品ですが、なんとも湿っぽくてジメジメした映画だった。

主人公で劇作家のキムの一人台詞が多いというのもあるし、物語の展開が妙に心理的な空気感があるためなのかもしれない。ただ、絵作りの美しさ。ストーリーの組み立てのうまさはさすがに見事な秀作。監督はグレープ・パンフィーロフです。

主人公キムと友人が車で走っているシーンから始まる。途中で右折禁止を無理やり曲がって警官に止められる。そこでのやり取りから、主人公のキムと警官の関わりがラストまで引っ張って行くというストーリー構成になっている。

話題になるようなテーマばかり選んで有名になった劇作家のキムであるが、どこか疑問を拭えないままに今日を迎えた。そこで、田舎のこの地を訪れたのだが、ここで一人の女性サーシャと出会う。

ほのかな恋心をいだき、彼女もまた自分に気があるのではと言う感覚に酔いながら、サーシャに近づこうとするキムの姿と一人台詞がストーリーを紡いで行く。

そしてついに、サーシャの家に勝手に入り込み待ち伏せするのだが、サーシャは恋人らしい男と帰ってくる。その恋人はサーシャを捨ててアメリカに旅立ち、サーシャはそのショックで気を失ったすきにキムはその家を出て車で去る。

しかし気を取り直しユーターンしてサーシャの元へ走る車が冒頭のシーンと重なるが、スリップして事故を起こし、怪我をして公衆電話からサーシャに電話をする。そのまま気を失ったところへ冒頭の警官が通りかかり、彼を助けてエンディング。

シンプルな物語構成の中に一人の警官をスパイスにした脚本がうまいし、寒々とした雪景色を繰り返し挿入し、キムの心のさみしさを全面に出した演出手腕もなかなかのものである。

ただ、キムの湿っぽいキャラクターがどうも個人的に好みでなくて、映画の感想としては普通という感じの一本でした。ただ、クオリティの高さは見事です。


「白い鳩」
ものすごくファンタジックな作品で、幻影とも幻覚とも取れない前半部分にまず引き込まれてしまいます。後半に進むにつれて主人公ワーニャのこだわりの物語の進んでいって、爽やかなラストシーンに向かう展開がなかなか素敵な一本でした。監督はセルゲイ・ソロヴィヨフです。

宇宙ロケットが飛び出すシーンから映画が始まる。このオープニングに驚かされる。宇宙に出た宇宙船の中にいる一人の男が地球を見下ろしながら、少年時代、戦後の苦しい中で一羽の白い鳩の物語を語り始めるのです。

チフスにかかってから髪の毛の一部が白いワーニャは白髪というあだ名で呼ばれている。父は戦争で片腕をなくしている。親友はピアニストを目指している。ワーニャは自宅にたくさんの鳩を飼っていて可愛がっているが、ある日真っ白な鳩を捕まえる。

地元では鳩を飼うことがブームのようで、希少な白い鳩は地元の人々に狙われ、巧みに盗まれてしまう。ワーニャがその鳩を取り戻すために奔走するのが本編なのだが、少年時代の一人の女性とのお話などがファンタジックな演出と映像で語られるのが実に幻想的です。

霞をかけた画面、回転するカメラワークや構図が夢見心地に誘い、そのまま後半の鳩探しの展開に流れて行く。

最後は、ようやく取り戻した鳩だが、この白い鳩ゆえに繰り返された人々へ疑いや争いに愛想をつかしたワーニャは鳩を大空に逃がしてやる。そして冒頭の宇宙遊泳のシーンでエンディング。

なるほど平和を訴えかけた映画だったのだなぁと胸が熱くなるとともに、しっかり構成されたストーリーだったと感心してしまった。なかなかの秀作でした。