くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「光」「光をくれた人」「映画 夜空はいつも最高密度の青色

kurawan2017-05-31

「光」
最近の河瀬直美監督作品の中では一番気持ちが入り込めた一本。クローズアップを多用したカメラワークに最初は戸惑うが、時にはなれた手持ちカメラの動きのある映像や大きく景色を取り入れたインサートカットなどを挿入したリズムづくりがなかなか楽しめる作品でした。

映画の音声ガイドをする主人公隆は美佐子のシーンから映画が始まる。音声ガイドの言葉をどうして行くかで実際に視覚障害のある人によるモニターをしてもらいながら修正して行くシーンへ移る。そこでストレートに批判してくるカメラマンの雅哉と出会う。彼は天才カメラマンの名をほしいままにしたが視力が徐々に消えて行く病気のためにほとんど目が見えなくなっていた。

映画シーンの表現に悩む美佐子は一方で日常の生き方にも若干の悩みを抱えている。そんな彼女にストレートに批判してくる雅哉もまたあ、消えて行く光の中でカメラマンとしての命が消えて行く不安に悩んでいた。

どこかに共通点を見出した二人は、いつの間にか引かれるようになって行く。そして、映画のラストシーンの夕日のシーンの表現に悩む美佐子に雅哉の部屋で見た夕日の景色の見えるところに行きたいと言い、二人はその場所へ。そして、そこで雅哉は愛用のカメラを捨てる。

雅哉はようやく、写真と別れを告げる決心がつき、美佐子も、様々な人との出会いで、自分の目指すものをなにがしか見つけた。そして、音声ガイドのシナリオも完成、物語は冒頭のシーンと同じ画面になって映画は終わる

雅哉も美佐子も、新たな未来へ向かったことをうかがわせるラストシーンがなかなかで、あまり河瀬直美監督の色と少し違うのだが、非常にスッキリとまとめられていたと思います。


「光をくれた人」
これはなかなかの秀作でした。人の心の奥底までしっかり見据えたような脚本と、見事なストーリー構成、そして人物描写をしっかりと捉えた演出も素晴らしい。一歩間違うと平凡に終わる物語なのに、胸の奥底まで響いてくる人間ドラマとして完成されていて、ラストシーンは熱いものがこみ上げてきました。監督はデレク・シアンフランスです。

第一次大戦後のオーストラリア、数々の戦功をを建てたトムはひとときの休息を求めて孤島ヤヌス島での灯台守の仕事を請け負うことになる。その島に渡る港町で一人の女性イザベルと知り合い、二人は結婚、そのまま灯台に住む。

やがてイザベルは妊娠するが、ある嵐の夜、流産してしまう。
一時は消沈したものの、しばらくして再び妊娠。しかし、今度こそと思った矢先、二人目の子供も早産してしまう。二度の悲劇に立ち直れきれなくなった二人だが、ほどなくしてトムは一艘のボートが流れ着くのを見つける。そしてその中には一人の男が死んでいて傍に赤ちゃんが乗っていたのだ。

本部に報告をするというトムに、イザベルはこれは神の思し召しだと自分たちで育てようと懇願する。最初はためらったトムだが、イザベルの姿に、決心をし、死体は島に埋めて、赤ん坊はルーシーと名付けて育てることにする。

ところが洗礼のために港町に渡った時、偶然教会の前でひとつの墓の前に佇む女性ハナを見かける。彼女は2年前に夫と当時生まれたばかりの赤ちゃんをボートで亡くしたのだという。トムは彼女こそがルーシーの本当の母だと確信するが、「無事である」ことだけを知らせる手紙を残し、島に戻る。

やがて、ルーシーを育てて四年の月日が経ち、トムとイザベルも幸せな日々を送っていたが、時にトムは過去の罪を心の隅に残していた。

そんなある日、灯台設立40周年の記念行事で港町に来た折、トムもイザベルもハナと話を機会を得て、過去の罪が蘇ってくる。そして、トムは去り際に、ルーシーが流れ着いた時に身につけていた小さなおもちゃをハナの家のポストにそっと入れる。これはある意味、告白でもあった。

ハナの父親は大金持ちで、孫のグレース(ルーシー)を見つけるために賞金を課すことにする。そして、そのおもちゃに見覚えのある男が、かつてヤヌス島で見かけたことを知らせ、トムとイザベルは逮捕されることになり、ルーシーもハナのもとに返されグレースとして引き取られる。

ルーシーは母親と引き離されたという思いで何かにつけグレースと呼ばれることを嫌い、ハナもまた悩むことになるのだが、一方イザベルも、真実を知らせた夫トムが許せないでいた。

トムは、自分一人の罪であると主張し、やがて本島へ移送することになる。ハナはイザベルのもとを訪れ、トムのことを証言して助ければルーシーをかえすとまでいう。イザベルはトムを追いかけ、すべての真実を話して二人はそのまま逮捕されて行く。そして、ルーシーはグレースとしてハナのもとに残すのである。

ハナの父はどうしてもグレースと呼ばれるのを嫌うルーシーに、ルーシー・グレースにしようと提案。

時は1950年、死の床にあるイザベルの傍にトムがいた。やがて、イザベルは此の世を去る。そんなある日一台の車がやってくる
乗っているのはルーシー・グレース。彼女はトムに礼を言い、トムはイザベルからルーシーに宛てた最後の手紙を渡す。彼女の手には赤ん坊が抱かれていた。

これからも時々訪れることを約束し、ルーシーは車で去って行く。美しい夕焼けのシーンが被り映画は終わる。

とにかく、これほど作り込まれたドラマは久しく見たことがない。どんどん物語に引き込まれ、最後はなんとも言えない胸の熱さを覚えてしまいました。
本当に素晴らしい一本でした。


映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ
こういう空気感の映画は大好きです。都会としての東京を舞台に、どこかに目的が見えないようでその日暮らしのような毎日を送りながら、何か希望や夢を見つけて前向きに生きている若者たちの姿を、みずみずしいほどの若々しい演出でみせたのはとっても好感です。監督は石井裕也。やはりこういう映画も撮らないとね。そこが石井裕也監督の良さだと思います。大好きな一本に出会いました。

大都会東京の夜景が広がるカットから映画が始まる。昼は看護師をしながら夜はガールズバーで働く美香は周りを行き交う人々を冷めたセリフで語りながら何気ない毎日を送っている。

ここに日雇いで生活をする慎二という若者が、外国労働者と、今時の若者風の友人智之と、やや中年に近い男性岩下と仕事をしている。

物語は慎二と美香の恋物語なのだが、周りの登場人物、特に慎二の周りの男性三人の個性がとっても素敵なのだ。ガールズバーで知り合った美香と恋仲になった途端心臓麻痺で死んでしまう智之のエピソードからさりげないお話が繰り返される様がとってもいい。

コンビニの店員に恋をして嬉々とした毎日になる岩下や、慎二に本を貸す隣のおじいさん、工事現場の監督にさえ、何気ない個性が見えて楽しい。

いつの間にか恋人同士のようになる慎二と美香は、終盤、結婚まで行きそうになる余韻でエンディングになるのですが、美香の田舎の実家の妹や甲斐性のない父親さえも、そんなに嫌な人間に見えず、微笑ましく見えてしまう。

人間はどうこうしながらも何気なく恋をしたり希望を見つけたり、日頃のちょっとしたことに幸せを感じたりして生きている。そんなさりげなさが、慎ましいながらも人生っていいなぁ、生きてるっていいなぁと思えてしまうのです。

心地よい読後感のような一本、そんな素敵な映画に出会いました。