「ボブと言う名の猫 幸せのハイタッチ」
もっと平凡な映画かと思ったが、意外に楽しく作られた作品で、面白かった。まぁ、猫の功績が大きいかもしれない。監督はロジャー・スポティスウッド。
ヤク中で、更正中の主人公ジェームズがホームレス生活をしているシーンから映画が始まる。ギター一本で路上ミュージシャンをしているがほとんど収入はない。彼が更正に前向きな姿を認めた担当官は彼を更正施設の一部屋を与え、メタドンの服用で禁断症状を抑え、日常生活できるよう指導を始める。
そんなある日一匹の猫が部屋にやってくる。飼い主を探すも見つからず、ジェームズは飼うことにする。そしてその猫と路上演奏を始めたところみるみる人気になって行く。
ジェームズはこの猫にボブと言う名をつけ、どこへ行くにも連れて行くようになり、固定ファンもできてくる。
ボブの登場で何もかも好転していき、途中なにがしかのトラブルもあったものの、やがて完全に薬も断ち、自伝の本まで出版されて見事更正して映画が終わる。
もちろん実話なので展開は決まっているが、どうしようもない毎日を送っているときのカメラ映像とボブが来て好転して来たときのカメラの色彩に明らかな手が施されているこだわりがいい。
物語の構成もうまく配分されていて、余計なところはさらっと処理したちょっと都合良すぎるところもないわけではないですが、あっさりと見終えるにはいい映画だったと思います。
「3つのボタン」
ヤギを飼う一人の少女が見る夢とも現実ともつかない不思議なファンタジー。監督はアニエス・ヴァルダ。
ヤギの乳搾りをしている少女のところに真っ赤な生地が届けられ、それがみるみるドレスに変わって、そのなかにはいるとどうくつになっている。
物語があるのか無いのかめくるめく幻想的なシーンが続いて行く短編。
色彩演出の美しさに魅了されながら、3つのボタンが栗ナスなんとも言えない詩篇が描かれてエンディング。
「幸福(しあわせ)」
アニエス・ヴァルダ監督の代表作にして、フランス映画の名作中の名作の一本。めくるめくような美しい映像のテンポと音楽に乗せたリズミカルなカットの連続が、まるでフィルムを操っているような感覚にさえとらわれてしまう見事な映画です。
主人公フランソワは二人の幼い子供と愛する妻テレーズと暮らしているが、街で、郵便局に勤める一人の女性エミリーと恋に落ち、逢瀬を繰り返し始める。しかし、彼は妻も愛していることに代わりはなく、それぞれに最高の愛情を注いで接していた。
エミリーはそんな立場に動じることもなく、フランソワと抱擁を繰り返す。街並みの色彩のカットや看板、人のショットの切り返しなど実にリズミカルでどんどん映像に引き込まれてしまう。
ある日、フランソワはテレーズや子供達とピクニックに行き、子供達が昼寝した後二人で愛し合う時に、エミリーのことを告白する。動じない風な反応をしたテレーズだが、眠った後目覚めたフランソワのそばにテレーズはいなくて、やっと見つけたと思ったら沼に溺れて死んでいた。自殺なのか事故なのかわからないままに葬儀も終わり、そのことをエミリーに報告するフランソワ。
子供達の面倒をどうするかと言うわずかなカットの後、エミリーとフランソワ、子供達が和やかにピクニックするシーンで映画が終わる。
物語にこだわればとても理解しがたいものかもしれないが、これが映像芸術であるとストレートに鑑賞すれば恐ろしいほどの傑作である。
色使いの美しさ、切り返しのテンポの見事さ全てが一つの芸術作品としてまとまっているし、その完成度の高さは群を抜いている。ヨーロッパ映画の真骨頂を見せてくれるような見事な映画作品と呼べる一本でした