くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「散り椿」「1987、ある闘いの真実」

散り椿

監督は木村大作なのだが、これだけのビックネームになれば、日本映画を牽引してくれるほどの傑作を期待するのですが、これで3本目ながらびっくりするような出来栄えの映画は見られなかった。たしかにクオリティは並もレベルを超えているが、引き込まれるほどではない。おそらく周りのスタッフも口を出せないのか、やや甘い演出になっている場面が所々に見られる。それに、映画全体にリズムが作り出せていないし、登場人物に心の変化が見られない。だから胸に訴えかけてこないのです。たしかに絵は美しいが、構図は平凡だし、唯一岡田准一の殺陣だけが目立ちすぎるほど目立っっている。

 

藩の不正を訴え、藩を追われた瓜生新兵衛が戻ってくるところから映画が始まる。最愛の妻篠の死ぬ直前の望みで、かつて四天王と言われ、一人藩の不正をたださんと残っている盟友榊原采女を守るためである。ところが、帰り道、刺客に狙われる。

 

やがて、采女の元を訪ね、かつての盟友平山の子息十五郎の道場に身を寄せた新兵衛は、間も無く戻ってくる政家とともに藩を立て直すべく、未だ正されていない石田玄蕃と商人田中屋惣兵衛との癒着を糾弾するため動き始める。

 

当然ながら石田からの圧力がかかり、追い詰められて行く采女と新兵衛だが、惣兵衛のもつ石田ら重臣が私服を肥やすきっかけになった証文を手に入れ、それを政家に届けて最後の決戦に臨む。

 

しかし、采女はあっけなく弓矢の倒れ、新兵衛は最後に石田を討って、政家の元、藩政立て直しの糸口を作る。そして、妻篠の弔いのため一人旅立って映画終わる。

 

淡々とストーリーが進むが、淡々というより平坦に流れているようにしか見えない。しかも、意を決してきた新兵衛の心の機微も采女と新兵衛と篠のプラトニックな純愛の艶やかさも見えない。篠の妹里美の切なさも言葉の上だけにとどまっているようで物足りない。

 

最初にも言いましたが、ソコソコのクオリティなのですがもっとハイレベルなものが見たいのです。数々の名匠に支えてきた木村大作なのだからという期待に応えて欲しかった。

 

1987、ある闘いの真実

実話を基にしたフィクションとはいえ、かなり見応えのある作品でした。第一に物語の構成が実によくできています。主になる人物を絶妙に変遷させながらストーリーを先に進めて行く展開が見事。監督はチャン・ジュナン

 

全斗煥大統領の元、韓国軍事独裁政権時代、北分子を徹底的に排除しようとする南営洞警察ではパク所長の元厳しい捜査が続いていた。そんなある時、一人の容疑者として捕まえたソウル大学生が拷問の末死んでしまう。慌てた刑事たちが医者を呼び、パク所長に連絡するところから映画が始まる。

 

医師がやってきたが時すでに遅く、隠蔽のため火葬するようにという指示が出る。刑事たちはチェ検事のもとに火葬許可の印をもらいに行くが、不審に思ったチェ検事は拒否。そこで様々な上層部から圧力がかかり始める。とうとうチェ検事は印を押すが、遺体保護命令の一文を追加、翌朝、解剖することになる。

 

このオープニングから錯綜し始める上層部、大統領府の右往左往がまず面白い。そして軽く処理するはずが、様々なところからほころびが出て事態はどんどん大きくなる。

 

新聞記者に情報が流れ、手を下した下っ端刑事に罪を着せて収束させようとしたら、刑務所内にも情報を集めるメンバーがいて外部に漏れ、さらに学生たちにも広がり、最後は大規模なデモになってしまう。

 

その中心の展開の脇に、関わった人たちのドラマを埋め込み、サスペンスを盛り上げる一方で人間ドラマとしてもしっかり描いて行く構成が実にうまい。そして、必死で圧力をかけ、暴力で押さえつけようとするパク所長ら上層部も、次第に収拾がつかなくなり、とうとう、大統領命令で逮捕収監されてしまうクライマックスはもう、圧倒されてしまう。

 

そして、登場した人物のその後が描かれ、犠牲になった人たちの追悼式の場面で映画が終わる。映画としても、娯楽性を盛り込んだ作りが、非常によくできているので、人物関係などよくわからなくなっても、絵で見せてくるから、その辺りの完成度も素晴らしい。韓国映画独特の暗さはあるのですが見応えのある一本でした。