くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「若おかみは小学生!」「あいあい傘」

若おかみは小学生!

評判に押されて見に行きましたが、なるほど良かった。素直な物語とでてくる個性あふれるキャラクターの絡みが素敵。しかもスピーディな展開と練り込まれた物語がなかなかの仕上がりになっています。正直、ラスト泣いてしまいました。監督は高坂希太郎

 

花の湯という温泉町の神楽のシーンから映画が始まります。祖母が旅館をしていてやってきたおっことその両親の姿。祖母に挨拶できず帰りの途に着く。車で走る家族の前に突然トラックが飛び出してきて大事故に巻き込まれ、両親は死亡、おっこだけ奇跡的に助かる。彼女を助けたのがウリ坊という男の子の幽霊だとのちにわかる。

 

花の湯の春の屋に引き取られたおっこは、そこでウリ坊やいたずら好きのみおちゃん、食いしん坊の鬼の魔物と出くわし、話の流れで、若女将としても習いすることになる。

 

物語は、占い師のグローリーや母を亡くしてふてくされている息子を元気付けるために来た親子、などこの旅館にやってくる個性的なお客とのやりとりで成長していくおっこの姿を描きながら、大旅館の一人娘真月とのやりとりもコミカルに、しかも結構大人の絡みが描かれる。

 

終盤やってきた家族が実はおっこの前に飛び出してきたトラックの運転手だとわかる。そしてそのやり取りの中で、吹っ切れたおっこがさらに成長しておかみとして生きて行く決心をする。そして今年の神楽を真月と踊り、それをきっかけにウリ坊やみおちゃんらが見えなくなって映画は終わる。

 

みおちゃんが真月の生まれる前に亡くなった姉であったり、ウリ坊がおっこの祖母の幼馴染であったりというさりげない設定も手を抜かず描かれているあたりも好感。

 

一見子供向けの物語のようで、各キャラクターが丁寧に描写されているし、シンプルな絵が、素朴な感動を読んでくれます。いいアニメでした。掘り出し物です。

 

「あいあい傘」

やっぱり泣かせてくれました。人間の心の機微、人生の機微を描くとこうも宅間孝行はうまいのかとたまらなくなる物語と、コミカルながら手前に常に別の人物を配置する独特の画面作りに引き込まれる作品でした。脚本監督が宅間孝行です。

 

モノクロームの画面、赤ちゃんが生まれる場面から映画が始まる。そしてその女の子が次第に成長するなかの三人の家族の幸せそのもののシーンが続くが、突然、電車の中で目を冷ます父親らしい男のカットに切り替わる。そしてふらふらと線路を歩く姿、それを目で追うお腹の大きい一人の女性。

 

男は恋園神社の石段を登っていく。その後を追う女。そして紫陽花、雨。男は石段を駆け下りてきたコソ泥とぶつかり、女は男に傘を差し出し二人はあいあい傘で歩き始めてタイトル。このオープニングがとにかく素敵。

 

タイトルが終わると、恋園神社の祭りが近ずいたある日、主人公六さんに電話が入る。相手はテキ屋の清太郎。ところが突然、しどろもどろになりきれる。テキ屋仲間の力也と日出子の吉本ばりの掛け合いで物語が幕を開ける。この出だしがまず軽やか。やや舞台演出的ではあるが、つかみは成功である。

 

遡り、なぜ清太郎がしどろもどろになったかが描かれる。自前の車で六さんに電話をしている傍ら一人の美女さつきが声をかけてきて、フォトジャーナリストなのでこの街を案内してほしいというのだ。すっかり舞い上がった清太郎はこの人こそ、将来の花嫁と息巻く。物語の前半はこの清太郎を茶化す周りの面々という流れ。その合間に六さんの過去がモノクロでフラッシュバックされる。

 

どうやら六さんはここにくる前に家族がいて、娘もいた。何かの事情で妻と娘と別れたようである。しかし、このさつきは、実はこの街に父親を探しにきているらしいと見えてきて、それが六さんで、今の妻玉枝とは籍を入れていない。娘の麻衣子とはどうもうまく行っていない風である。

 

すれ違いながらのさつきと六さん、さらに清太郎の恋も絡んで、周りのテキ屋仲間たちの冷やかしも色を添えていく。そして、事情が知れてから清太郎やさつきが力也たちと飲んだ席で、さつきは自分たちがこの25年、苦しんだ生活をしてきたのに、父はこの地で別の家族と幸せに暮らしているのが許せないと息巻く。

 

そして、次第に事情がはっきりしてきて、実はさつきを探してくれと依頼したのは玉枝で、探してくれと頼んだ相手はかつて六さんとぶつかった後改心したコソ泥で、今は成功した男だと知る。

 

祭りの夜、玉枝の計らいで六さんの目の前に現れるさつき。カメラを向けるさつきに、六さんは察したかのように、どちらからきたのかと尋ねる。さつきは横浜からだという。かつて六さんが住んでいた街である。玉枝が傍においたアルバムには幼い日さつきが父にあてた手紙が挟まれている。

 

さつきは六さんの肩に手を当て、今日は写真を取らせていただいてこのまま帰ると告げる。もう涙が止まりません。ここまで心の機微を事細かく描かれたら、泣かない方がおかしい。

 

そして翌朝、さつきは途中まで清太郎に送ってもらい、清太郎は別れて車を走らせる。モノクロームのシーン、幼い頃の清太郎、幼馴染の女の子、若き日の玉枝、何もかもが運命の絡み合いがあることが描かれて映画が終わります。

 

やや、雑な処理になっているところもあるのは、元が舞台ゆえの限界かも知れません。導入部の軽快な掛け合いのリズムが最後まで残さなかったのは少し残念ですが、ある程度事情がわかってきてもグイグイと心の中に迫ってくり人間ドラマにスクリーンから目が離せず、最後は涙が止まらなかった。宅間孝行はやっぱりいいですね。