くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「近松物語」「殺る女」「search/サーチ」

近松物語」(4Kデジタルリマスター版)

溝口健二監督の傑作を4Kデジタルリマスター版で見ました。やはり素晴らしいですね。構図の取り方といいカメラワークといい、うっとりと引き込まれてしまいます。描かれる男と女の情念の深さ、しつこくもなく、重苦しくもなく、それでいて一途な思いを見せる描写も見事。これこそ名作の貫禄です。

 

大名の注文に、風邪で臥せっているベテランの手代茂兵衛が呼ばれる場面から映画が始まる。江戸時代の大棚の店内を縫うように移動するカメラ、スーッと二階へ抜けるワーキングが素晴らしい。

 

一方、遊び呆けるばかりの出来の悪い弟を持つこの店の妻おさんが、例によって金の無心にきた弟に無理やり工面を頼まれる場面が挿入。さらに、この店の主人大経師以春が女中のお玉に言いよるシーンが絡む。

 

そしておさんは思い余って茂兵衛に弟の金をなんとかならないと相談、快く引き受けた茂兵衛だが、主人の印判で細工しようとしたところを、仕事仲間の手代の助右衛門に見つかり、改心して主人に詫びるが、主人は茂兵衛を許さず、納屋の二階へ幽閉。一方おさんはお玉に夫のことを白状され、お玉の身代わりで女中部屋へ。そこへ、昼、自分をかばってくれたお玉に礼を言おうと抜け出してきた茂兵衛と鉢合わせ、さらに、そこへ助右衛門が飛び込み、おさんと茂兵衛が不義密通していたかに疑われ、茂兵衛は飛び出すも、おさんもこの家に愛想を尽かし飛び出す。

 

会うべくして二人が会い、大阪へ向かうことになる。まるで流転する如く人生を転がり落ちていく二人。しかも死を覚悟したおさんに茂兵衛は、実は思い焦がれていたと告白するから、ここから恋の道行きとなる。

 

不義密通は死罪の上お家取りつぶしの大罪ということから、必死でないことにしようと奔走する以春。さらに逃げる先々で、疎まれ行き場もなくなった末に茂兵衛の父の元へ逃げるが、役人に引き離され、実家の岐阜屋に戻ったおさんを茂兵衛が訪ねて、二人は不義を働いたと告白して、馬上で縛られ、市中を引き回される二人、その顔にはなんとも言えない晴れやかさがあった。二人が引き連れられていくシーンで映画が終わる。

 

子供を守りたいが、時の世の中の厳しさを見せていく茂兵衛の父やおさんの母の描写も素晴らしく、単純な男と女の恋物語に変化していくストーリー展開の妙味も見事。さらに、おさんの部屋の調度や襖など、ハッとするような美術と構図で捉える画面作りも息をのむ仕上がりで、まさに名作中の名作というのはこういう映画を言うのだろう。

何度で見て損にならない見事な映画でした。

 

「殺る女」

超一級品の後に超駄作を見た感じの映画。テンポの悪さ、脚本の薄っぺらさ、センスのない演出、今時、素人でもこんな映画作らんやろうにという作品でした。お金と時間の無駄を久々に感じた。監督は宮野ケイジ。

 

主人公愛子は、幼い頃、施設を出てきた青年二人に両親を惨殺され、その時に見た犯人のサソリの刺青の男への復讐のためにプロの殺し屋になったらしい。

 

が、まずプロに見えない。しかも、一方でその時に犯人の今が描かれて、幸せな家族を持ち暮らしているが、昔の仲間からの誘いで、薬の取引に加わらざるを得なくなる。

 

たまたま仕事で、その現場に行った愛子は、そこで、サソリの刺青の男に出くわす。彼には、かつて愛子が両親を殺された頃の年齢の女の子がいた。とまぁ、ありきたりはいいとしてもキレのない殺しのシーンと、サソリの男俊介の姉の、周りの男たちへの憎悪も中途半端なラブシーンで描かれるから最低。

 

結局、愛子は俊介を殺し、その娘の盲目の少女に銃で狙われエンディング。バカらしくて苦笑いが出てしまった。しかもエピローグのタイトルバックのアニメで、その少女が成長して盲目の殺し屋になってるらしい下りには辟易した。

 

なぜかやたら外人が出てくる適当なキャラクター設定。今時マフィアかという悪者設定。あまりに貧弱な発想と演出で、メジャーなシネコンにかける映画を作る姿勢が疑われる。そんな作品でした。

 

search/サーチ

これは面白かった。パソコンの画面だけで進むサスペンスというのが売りなので、一発屋的なキワモノ映画程度に思っていたが、脚本がしっかりしていて、ストーリー展開の面白さをパソコン画面内だけという閉鎖空間をうまく利用して描く手腕は評価できる作品でした。監督はアニーシュ・チャガンティー。

 

父デビッドは娘のマーゴットと何かにつけ疎遠になり、弟のピーターが何かにつけ心配してくれている。娘に接するすべもないデビッドが懐かしい写真をパソコンで見直す。愛する妻はどうやら血液のガンでなくなったらしい。

 

そんなある夜、デビッドにマーゴットから3回も電話があったが、デビッドは寝入っていてでなかった。

 

翌日、マーゴットに連絡を取るが通じない。友達らしい人物にも連絡を取るも通じず、次第に焦り始めたデビッドは、パソコンから娘のSNSを通じて多方面に捜索を開始する。

 

しかし、行ってるはずのピアノレッスンは半年前にやめていて、友達らしい人物も実はいなくて、マーゴットは孤独だったことも次第に見えてくる。

 

そしてとうとう警察に捜査を依頼、ヴィック捜査官が担当することになる。彼女は熱心に捜査を進めてくれるが、一方でデビッドもネットを駆使して様々な方面を捜査していく。

 

そしてどうやら娘はお気に入りの湖に出かけたらしいことを突き止めるが、不明の2500ドルの謎も出てくる。執拗に逃亡説を説くヴィック捜査官。

そしてとうとう、湖でマーゴットが乗っていたらしい車が発見される。

 

ところがふとしたことで、娘が弟と意味深なメールのやり取りをしていることに気がつき、デビッドはピーターの家に盗撮カメラを仕掛けて、証拠をつかもうと訪れる。しかし、男女の関係を疑ったデビッドの前で、実はマリファナを吸わせていただけだと告白。そんな時ヴィック捜査官から犯人が見つかった。そして、マーゴットの死も認定されたと連絡が入る。

 

婦女暴行等で収監されていた犯人が出所し、マーゴットを襲って自殺したことを動画に投稿したのだ。ヴィック捜査官はマーゴットの死を認定、葬儀の準備を進める。一方、葬儀関係のメモリアルフォットサービスから勧誘のあったデビッドが、思い出の写真をアップしていると、なんとその経営者の女性は、かつてマーゴットとメールの受け渡しをしていた女性と判明、連絡を取るが、警察からも連絡などないとわかる。

 

おかしいと感じたデビッドが警察署に連絡。ヴィック捜査官は捜査主任を任命されたのではなく志願したことがわかる。どこかおかしいと感じたデビッドは、保安官代理に連絡。マーゴットの葬儀会場にいるヴィック捜査官を逮捕してもらう。なんとマーゴットの死を偽装したのはヴィック捜査官だった。

 

彼女は息子が誤ってマーゴットを渓谷から突き落とし5日経ったので、その隠蔽のために捜査を指揮したというのだ。しかし、5日経って、生存は難しいという警察の判断に、デビッドは嵐があったので二日しか水のない日はなかったと、再度渓谷を捜査、娘を救出する。

 

最後まで命に別状なかったかは語らず、最後の最後、デビッドとマーゴットの写真がネットに来て無事が判明映画が終わる。

 

うまいです。パソコン画面内の閉鎖空間で展開するサスペンスは、逆に見えないものが見えず、また一方で、気がつかないことを気づかせてくれます。そのアイデアに拍手したい作品でした。若干雑なところがないわけではありませんが面白い着想の映画だったと思います。