くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「地図のない町」「最後の切り札」「モアナ南海の歓喜」「極北のナヌーク」

「地図のない町」

橋本忍脚本にしてはキレがないように思うのは、ちょっと本来の話を捻じ曲げてサスペンス仕立てにしたときの無理がかかった感じでしょうか。ラストの畳み掛けだけが浮き上がって見えてしまうのも残念だし、少し長く感じてしまうのは物語の構成のバランスが悪いせいでしょう。監督は中平康

 

バラック建てのドヤ街のような街をカメラが縫うように進んで行きタイトル。

主人公の若き医師葉山が隠していたメスを取り出し、何やらことを起こそうとするシーンから映画が始まる。物語は十ヶ月前に戻り、葉山が競輪に来ている。彼の妹が恋人と夜の道を歩いているとやくざ者たちが絡んできて、妹は襲われる。

 

時が経ち六ヶ月前、葉山たちはバラック建ての集落に移り住んでくる。葉山はその地域の笠間診療所に勤めるようになる。この地域に新しいアパートとスーパーを建て良いと強硬な圧力をかけてくる梓建設がある。葉山の妹たちを襲った男たちが梓組の法被を着ていたと聞き、葉山は梓組を恨むようになる。

 

物語は悪徳業者の梓組の執拗な嫌がらせと、地域の人をまとめる人望ある笠間院長との対立に葉山の恨みが絡んでくる展開だが、ともすると葉山の物語が宙に浮いてしまう。

 

そして、時は今、業を煮やした葉山が梓組の社長を殺しに部屋に乗り込むと、メスに刺された死体があった。葉山はその場を逃げるが、実は笠間院長が殺したと判明、笠間院長は自殺してしまう。

 

葉山は梓社長の葬儀の場に赴き、笠間院長の後を継いだこと、悪人を倒す法律はあるが善人を守る法律はないと語らせ映画が終わる。

 

二本の物語がうまく処理されず、映画が長く感じさせる結果になった。橋本忍らしいラストのどんでん返しだけが目立つ仕上がりになった作品でした。

 

「最後の切札」

以前見ていたのだが、間違えてまた見てしまった。ブラックユーモア的な終わり方がちょっと魅力のあるサスペンスで、その不思議な感覚が楽しい一本でした。監督は野村芳太郎

 

詐欺を繰り返しながら金を稼ぐ主人公たち。巨大な新興宗教相手にまんまと入り込んだと思ったが、実は相手が一枚上手で、最後の切り札と思ったものも、先手を打たれていて、皮肉な結末を迎える。こういうウィットに富んだ脚本をかけるのはやはり橋本忍ならではです。

 

今見ればノスタルジーに浸ってしまう街並みの喧騒も楽しみの一つにできる一本。二度目でしたが面白かった。

 

「モアナ 南海の歓喜」(音声付きデジタルリマスター版)

ドキュメンタリーは見ないのですが、ロバート・フラハティの傑作ということで見に来た。

1925年製作されたサイレント作品ですが、1980年に娘のモニカ・フラハティが現地に渡り音声と音楽を加え、2014年にデジタル復元された傑作。ドキュメンタリー映画というのが初めて使われたという作品です。

 

100年前のサモア諸島の島。一家の長男モアナにはファアンガセという婚約者がいる。画面は現地の素朴ながらも一生懸命自然と生きる姿が捉えられていくが、とにかくストーリーがあるのではないかと思うほどに次々と描かれる映像が面白い。

 

ココナッツを取り、罠を仕掛けて獣を取り、海に潜ってウミガメを取る。美しい自然の景色を抜群の構図で切り取り、透き通る海の水をキラキラ輝くそのままにカメラに収める。舟を漕ぐモアナたちの向こうには虹が上がっている。カメラの位置を想像するだけでもワクワクする映像です。

 

そして、画面がモアナとファアンガセの結婚式に向かって、様々な料理を準備し、装飾を準備し、刺青を施し、村人たちの踊りが舞う。

 

とにかく映像にリズムがあるのである。ドキュメンタリーというよりドラマティックな世界。なるほど傑作と納得してしまう一本でした。

 

「極北のナヌーク」

ご存知ロバート・フラハティ監督の代表作の一本。とにかく面白い。次は何が起こるんだろう、次は何をするのだろうとワクワクしてみてしまい、まだまだ見たいなと思うところで映画が終わる。

 

画面を九等分した美しい構図と絶妙のタイミングで展開する出来事。狩をし、雪原を走り、厳しい自然の中の生活なのに笑みが絶えることがない毎日。その素朴すぎる姿にどんどん画面に引き込まれます。

 

カヌーから次々と人が出てくるオープニングがまず微笑ましいのですが、生肉を美味しそうに頬張る姿や無邪気に遊ぶ子供達、人間が人間に見える瞬間が随所に見られます。

 

厳しい北の吹雪が迫り、野営地に戻れなくて、古く放置されたところに避難する。迫る吹雪に真っ白になる犬たちを捉え、犬たちとイヌイットたちが眠るカットでエンディング。

 

なぜこれほどまでに魅了されるのだろう。これがドキュメンタリー映画の傑作だと言われればそれまでですが、もっとその奥にある何かがある気もします。イヌイットたちの笑顔が忘れられません。見てよかったです。