くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「生きとし生けるもの」「南の風と波」「コタンの口笛」

「生きとし生けるもの」

とっかかりの話がどんどん膨らんで収拾がつかなくなって、ラストは笠智衆の演説で全て終わらせる。言いたいことはわかるが、全体がまとまらない。そんな映画でした。監督は西河克己

 

ある会社の賞与の日に映画が幕を開ける。それぞれに配られた賞与だが、一人が一万円足りないという。一方、伊佐早という男の賞与が一万円多いことが家に帰って気づき、慌てて会社に戻るが誰もいない。

 

彼には弟がいて、苦学をしている。月謝が払われていないのを知って、余分な賞与で支払うようにする。しかし罪悪感の消えない伊佐早は経理のあき子に事情を話そうと呼び出すが、告白と勘違いし、そのまま二人は付き合うようになる。

 

そんな一方会社の社長の息子夏樹は、父の計画である会社の社長として赴任することになり、あき子を秘書にする。そしてあき子に結婚を申し込む。

 

話がどんどん膨らむところへ、北海道の鉱山でストが起こり、そこへ駆けつけ、物語はクライマックスへ。

 

なぜか、いにしえから周作らの幼き日を知る笠智衆が延々と貧富の問題を語って、伊佐早はあき子に、一万円のことについてちゃんと自分の気が済んで一人前になったら、もう一度あなたの前に現れると行って映画が終わる。まぁ、無理やりラストシーンというエンディングでした。

 

南の風と波

ある漁村に住む人々の生活を描写する前半、そして、一隻の船が遭難し、村の若者たちが一瞬で死んだことからくるそれぞれに関わる人たちの人間模様が描かれて行く。橋本忍のタッチというより中島丈博の色が出た脚本で、なかなかしっかりした一本でした。監督は橋本忍

 

物語は、ある漁村、一隻の船が帰ってくるところから映画が始まる。その船の所有者栄吉とその妻富子は仲が良く、なんのこともなくその日が過ぎ、間も無くしてまた出航して行く。

 

鉄くずを売りさばくと金儲けになるらしいと大阪に向けて出て行くが、そのまま帰らなくなる。その船にいつも乗り込む若者や、初めて船に乗る少年、彼らが一瞬でいなくなり、残された家族たちの苦しむ姿から、やがて、明日に向かって行く姿で映画が終わる。

 

一つ一つのドラマがしっかりしているために、全体が非常にまとまった作品で、女の自立する姿を捉えた時代色も見事。作品としては良質の一本でした。

 

「コタンの口笛」

北海道のとある村を舞台に、アイヌ民族への差別物語を延々と描く。監督は成瀬巳喜男ですが、異質な一本でした。

 

アイヌ人のマサとユタカが中学校へ行く場面から映画が始まるが、いきなり同級生からの差別的な態度を取られる。

 

何かにつけて、悪者扱いされるマサ達だが、父親達はそういう境遇に耐え忍び受け入れるようになってきている。

 

物語は、マサとユタカの日常の中で描かれるアイヌ人への差別を繰り返し繰り返し、さまざまなエピソードで描いて行く流れになる。

 

正直くどいほどに繰り返されるワンパターンに近い物語と、出てくるキャラクターがエピソードの後消えてしまうままの作劇が少々おかしいように思いますが、最後の最後はマサ達の父親も死んでしまい、村を出ることになって映画が終わるという悲惨な結末である。

 

成瀬巳喜男作品とは思えない空気感の映画で、レアな作品であることはわかりますし、今、再三公開することは躊躇される映画だと思う一本でした。