くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「恐怖の報酬」「BU・SU」「東京夜曲」

「恐怖の報酬」(完全オリジナルバージョンリマスター版)

絶頂期だったウィリアム・フリードキン監督が、アンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督の名作に臨んだ一本で、当時かなりカットされての公開だったものをオリジナル版でリバイバルした。初めて見た時も思ったが、ストーリーの展開が今ひとつ乗り切らない。今回の全長版を見て、フリードキン監督の芸術的な絵作りは見事だと思った。

 

主要キャストの様々な過去から映画が幕を開ける。そして、ニトログリセリンをジャングルの奥地の石油採掘城まで運ぶメインストーリーへと流れていくが、この導入部がややしつこい。クルーゾー版は、いきなり主人公達が集まる殺伐とした画面から始まるが、ここも正直長い。

 

そして見せ場は、トラックを走らせていく中での様々なトラブルを克服していくサスペンスが売り物。クルーゾー版とは異なったドキドキシーンを作った目新しさは面白いが、どうも全体のまとまりはそれほど完成度が高いとも思えない。これは、初めて見た時と同じ感想になった。

 

そして、最後は一人で荷物を届け、無事金をもらった主人公だが、過去の仲間が彼を追ってきて殺されるかのイメージを抱かせてエンディング。

 

クライマックスのオーバーラップや色彩演出にこだわった画面は美しいが、編集の妙味などのストーリー作りの面白さは見られなかったように思います。

 

「BU・SU」

いまひとつ性格が良くない主人公が東京へ転校し、芸者の見習いをしながら過ごす高校生活を描いたさりげない青春ストーリー。素朴な爽やかさが光る秀作でした。富田靖子が抜群にキュートです。市川準監督のデビュー作。

 

どこかいつも俯いている少女は、東京へ出ていくところから映画が始まります。家庭内もいまひとつ両親の関係も良くない感じですが、その辺りはさらりと流し、東京へ来て芸者の見習いをしながらの毎日がとってもみずみずしく描かれていく。

 

市川準監督ならではの映像感性か、ストップモーションやスローモーションで、キャストの表情を捉えるカットを挿入し、映像に独特のリズムを作っていきます。

 

流れの中で文化祭で八百屋お七を一人で踊ることになった鈴女は、結局舞台セットが壊れて大失敗。キャンプファイヤのセットにランプを投げつけて燃やすラストで映画が終わる。

 

ほんのひと時の青春ストーリーが、何気ない素朴さと切なさで描かれる。恋もあるようでなく、深い友情関係もあるようでない。当時の高校生達のややドライになりかけた空気感も見事に描かれています。

 

富田靖子の好演が一番ですが、とっても心に残る一本でした。

 

「東京夜曲」

たわいのない日常のたわいのない人たちのさりげない物語が、とっても心にしみてくる。生きてるって素敵だなと思える一本でした。監督は市川準

 

東京の片隅の商店街、そこに住む人たちの日常を市川準ならではのさりげないセリフとカットの積み重ねで淡々と見せていきます。そこに大きなドラマはありませんが、商店の人々の若き日のドラマ、恋、今に続く何気ない日常がただひたすら描かれていきます。

 

ただゆっくりと流れる時の流れを感じさせ、生きていくことの平凡な幸せが心にしみてきます。今の物語なのにどこか懐かしい映画を見ているような感覚。素敵な映画でした。