くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「バルバラ セーヌの黒いバラ」「彼が愛したケーキ職人」

バルバラ セーヌの黒いバラ」

全体が音楽劇のようなまとまりのある作品で、特にドラマティックなストーリーは存在せず、ドキュメンタリータッチの映像が綴られていく。玄人好みのクオリティの高い作品でした。監督はマチュー・アマルリック

 

新作映画でシャンソン界の女王バルバラを演じることになったブリジット。バルバラを演じることに心身ともに打ち込むうちに次第に現実との区別が混沌とし始め、バルバラという偉大な歌手に支配されていく。

 

一見狂気のようにバルバラになりきるブリジットの演技が絶品で、見ているこちらも、バルバラのドキュメンタリーをブリジットで描かれているのではないかと思えてくる。

 

ところどころに挿入されるシャンソンの名曲の数々が、画面の中に突然飛び出すことで、まるで音楽劇のような雰囲気を作り出し、一つに見事に融合した映像が素晴らしい。

 

ストーリーの根幹を追い求めると、映画の撮影セットなどを組み合わせるので混乱していくところもありますが、よくねりこまれた映像表現を堪能できる一本でした。

 

「彼が愛したケーキ職人」

非常に上品な映像と演出で見せるラブストーリーの秀作。ゲイの映画では無かったらもっとのめり込んでいたと思いますが、それでも、いい映画でした。監督はイスラエルのオフィル・ラウル・グレイツァ。

 

ドイツのクレメンツカフェという店に、月に一度出張でやってくるイスラエル人のオーレン。彼がいつも土産に買って帰るのがこの店のクッキー、そして、決まって店で黒い森のケーキを食べていた。店のオーナーのトーマスに何かにつけ相談したりするうちに親しくなりそれは、いつの間にか愛に変わってしまう。

 

ところが、二人に愛が芽生えて間も無く、イスラエルに帰ったオーレンにトーマスが何度電話しても連絡がつかなくなってしまう。仕方なく彼の会社に出かけて、そこでオーレンが亡くなったことを知る。

 

イスラエルで小さなカフェを営むオーレンの妻アナトのカット。息子のイタイは学校でうまくいっていないようで、夫を失い一人で切り盛りするアナトには疲れがたまっていたが、叔父のモティが何かにつけ世話を焼いていたが、宗教的な束縛を強いてきていた。

 

トーマスはイスラエルにやってきてオーレンの妻の経営するカフェにやってくる。そして、カフェの手伝いに入りようになる。ある時、イタイの誕生日にクッキーを焼く。非ユダヤ人であるオーレンがオーブンを使うことは禁じられていてモティに非難される。この辺りの宗教観の描写が実にうまい。

 

トーマスは、次第にクッキーからケーキを焼くようになり、それが評判になって店は繁盛し始める。そしてアナトはトーマスに愛を感じ始める。ところが、トーマスが書いたレシピのメモが、オーレンの遺品の中にも同様のものを見つけ、オーレンが生前、ドイツに恋人ができたからと告白した相手はトーマスだと知る。しかも、オーレンの携帯の留守電にはトーマスのメッセージが入っていた。

 

そんな時、突然アナトのカフェが食品規制に違反していると告発され、大量注文されていたケーキもキャンセルに。モティはトーマスに帰国するように航空券を渡す。

 

三ヶ月後、ドイツにやってきたアナトは、クレメンツカフェの前にいた。中からトーマスが出てきたが、声をかけず、その姿を追って映画が終わる。このラストの処理も上品でいいです。

 

イスラエルの日常生活の宗教観をさりげなく描写し、その制約に悩むアナトの姿で、現代のイスラエルを描く。さらにゲイは確か禁止の国だった気がするし、その辺りも辛辣に描いた脚本がうまい。

 

全編、淡々と静かに進むが、押さえるべきポイントを丁寧に客観的に描写していくストーリーと、切ないラブストーリーが魅力的な作品でした。