くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「廃市」「ロング、ロングバケーション」

kurawan2018-02-01

「廃市」
大林宣彦監督監督らしいファンタジックでノスタルジックな叙情的な作品でした。心の変化が生み出すドラマティックなファンタジーという感じの静かな映画で、抑えた色調としんみりと染み渡るような空気感に引き込まれてしまいました。

主人公江口が卒論を書きあげるために福岡の柳川の旧家にやってくるところから映画が始まる。出迎えた陽気な女性安子に導かれるままにこの柳川の街に惹かれていく江口。

最初の夜から何やら不思議な声を聞いたり、意味ありげな人たちの言葉が耳につくのですが、安子のあっけらかんとした明るい振る舞いにいつもかき消されていく。しかし、何かを感じたものが少しづつ心の中に占める割合が多くなり、ある時、お寺に安子と訪れた時、安子の姉郁代と出会う。

郁代の夫直之は養子で安子らの家に入ったが、今は秀という女と暮らしていた。しかし話を聞いてみれば、直之が愛しているのは郁代であり、それが受け入れられない郁代は家を出たのだという。しかも、終盤、直之が愛しているのは安子なのだという郁代の邪推さえも浮かび上がってくる。

そして、直之は秀と心中してしまう。

やがて、卒論も終わり江口は柳川を後にするが、その見送りの時、いつも安子と江口が出かける時船を操っていた三郎が江口に「この町の人たちは本当に誰に向かって愛しているのか気がつかない。あなたも安子さんを愛していたはずです」と叫ぶ。

江口は電車の中で、柳川での一夏を思い起こすのでした。

いつも視線のみでほとんどセリフのない三郎の存在や、さりげない空気感が本当に叙情的に男と女のドラマを紡いでいく様が見事な一本。大林宣彦監督のうまさがしっかりと表に出た映画でした。


「ロング、ロングバケーション
どこまでもどこまでも続いていくハイウェイ。この構図が何度も出てくる。主人公の二人の人生はこれからも永遠に続いていくのだと言わんばかりです。エピソードの繰り返しが少々くどく感じなくもないですが、とっても考えさせられる佳作でした。やはりドナルド・サザーランドヘレン・ミレンと名優二人の掛け合いは見事です。良かったです。監督はパオロ・ピルツィ。

老いた両親を引き取るために娘と息子がやってくるシーンから映画が始まる。ところが二人ともいない。近所で聞くと車で出かけたという。しかも大型のキャンピングカーで。

父ジョンはもと大学教授だが認知症が進んでいる。母エラは末期の癌で余命いくばくもない体。まもなく息子たちに連絡が入り、二人で出かけたが心配いらないという母エラの電話。こうして二人の老父婦のコミカルなロードムービーが始まる。

泊まったところで、若き日のスライドを見、時に記憶を取り戻す夫に感情をぶつけながら愛おしく接する妻の姿が描かれる。目指すのは夫ジョンが尊敬するヘミングウェイの家。

ドラマティックなエピソードは起こらないが、夫が時々思い出す過去の女や、妻のことを忘れたり別人と思ったりするくだりに、妻エラが応酬するくだりが実にコミカルで楽しい。

そして、次第に妻の様子の酷くなるなか、二人は目的の地につく。そして、最後に豪華なホテルに泊まるが、体調を崩した妻は救急車で病院へ。しかし、ジョンが病院から連れ出し、自分たちの車に戻る。エラはこれ以上の旅は無理と判断し、夫にやや多めの睡眠薬を与え自らも多めに薬を飲み、傷んだ車の床下の排気口を開きベッドに入る。

子供達にこれ以上自分たちで負担をかけないため、そしてジョンを愛しているがため無様な姿を残したくないため死んでいくエラの決断が素晴らしく感動的。最後の夜、ジョンとエラがほんのわずかSEXするシーンに涙が出てしまいました。人生の終焉、愛し合う夫婦の最後はこういうものなかもしれません。いい映画だったし、考えさせられました。