くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ライオンは今夜死ぬ」「ローズの秘密の頁(ページ)」「スリ

kurawan2018-02-09

ライオンは今夜死ぬ
淡々と静かに流れる物語に、さりげなく死を覚悟した一人の老優の心の変化、懐かしい若き日の思い出が蘇ってくる。直接訴えかけてくる大きなものは見えないが、どこか自分の歳になって感じ入る映画でした。監督は諏訪敦彦です。

主人公ジャンが映画の撮影に来ている。「死を演じることができない」とひたすら呟くのだが、結局相手役が不調で撮影は中止。彼はある古い屋敷にやってくる。そして、そこでかつて愛した一人の女性ジュリエットの若き日に出会う。さらに、かつての同僚クロードにも鍵をもらい、しばらくその屋敷に住むのだが、そこでは地元の少年たちが映画を撮っていた。

そして、ジャンはその少年たちの映画の撮影に加わることになり、その中で、元妻ジュリエットとの物語が回想されていく。

どちらかというとファンタジーである。ジャンが若き日、映画俳優として活躍していた日々が映画少年たちの中に蘇り、少しづつ死を意識した自分の中に愛した妻の懐かしい思いが繰り返される。

やがて映画の撮影は終わり、ジャンは本来の撮影現場に戻る。それは死んでいく一人の男性のシーンだった。

少年たちのリーダーが父を亡くし、失意の中にいる寂しさをさりげなく挿入し物語に深みを作り出している。自主映画の撮影終了時、少年は彼を見据えるライオンの姿を見る。

寓話のような人生ドラマという感覚の作品で、なぜか、映画に惹かれる作品でした。


ローズの秘密の頁(ページ)」
ちょと苦手な映画ですが、ストーリーの構成といい、展開の見事さといい、なかなかの秀作、バネッサ・レッドグレーブの名演技が光る一本でした。監督はジム・シェリダンです。

一人の有名な精神科医スティーブンが取り壊しの決まった精神病院に40年間収容されている一人の患者ローズの再鑑定を大司教から依頼されてやってくるところから映画が始まる。

ところが、ローズ・クリアという患者だが、ローズ・マクナリティという名前だという。しかも赤ん坊殺害という彼女に着せられた犯罪も無実だという。

こうしてスティーブンはローズの過去を診察検証していくのが本編。途中で大体の物語の真相は見えてくるが、芸達者を備えた画面の重厚さが最後まで引き込んでくれる。

若き日のローズの物語と現代を交錯させて、やがて、子供を殺したわけではなく、へその緒を切っただけという真相、ゴーント神父の子供であったため、彼が赤ん坊を持ち去ったこと、そして、大司教こそがゴーントであり、この時持ち去ったローズの子供がスティーブンであるラストへ流れていく。

若き日のローズがゴーント神父に執拗につきまとわれたり、マイケルと知り合って結婚するが、アイルランドと英国という差別扱いに蔑まれたり、民族問題の複雑さもからみあわせ、ちょっと無理がかかった部分もあるが、綺麗に処理されていく。

中心の話の浪花節的な展開にさまざまな社会問題を絡ませた脚本がなかなかの一本、景色の捉え方も美しい映画でした。


スリー・ビルボード
これは傑作でした。練りこまれた脚本の構成の素晴らしさもさることながら人間の心が変化していく様が手に取るように見られる演出、さらに、さりげない展開に現実のリアリティが盛り込まれている。傑作でした。監督はマーティン・マクドナー

7ヶ月前に娘がレイプされ殺された母ミルドレッドが、寂れた道を走っているシーンから映画が始まる。やがて一軒の広告店にはいり、オープニングで通った道にある看板三枚に広告を出して欲しいと頼む。内容は、娘の事件を捜査しない地元警察署と署長の怠慢を訴える文面だった。このして物語は始まる。

当然のように人種差別するディクソン巡査の所業が前半前面に描かれ、一方温厚で真面目な署長ウィロビーの行動が描かれる。しかも彼は膵臓癌で余命いくばくもない。また、町の人々もミルドレッドの行動に批判的でもある。

さまざまなキャラクターを適度の配分で登城させ、それぞれが無駄になることなく物語の中に生かされていく脚本の見事さにまず圧倒される。背後に流れるややレトロな曲の数々も作品に美しいリズム感を生み出していくのがいい。

やがて、署長は自殺し、関係者それぞれに手紙を残す。署長の死でディクソンは自暴自棄になり広告店のレッドを窓から放り投げて半殺しにする。間も無くして黒人で正義感の強い署長が赴任し、ディクソンは首になる。しかし、ウィロビー前署長の手紙があるからとい連絡で、深夜に警察署にやってきたディクソンは、ウィロビーの手紙に、ディクソンは警官向きだが切れるのだけが欠点であるとアドバイスされる。その手紙にのめり込んでいる時、向かいからミルドレッドが火炎瓶を警察署に投げつけディクソンは火傷を負う。

退院したディクソンが酒場で飲んでいると後ろの客が、女をレイプしたと自慢話をしている偶然に遭遇、喧嘩を装いDNAを手に入れ、鑑識に送る。ところが、結局、真犯人ではなかった。しかし、レイプ魔だと確信したディクソンはライフルを手にその男が住んでいるアイダホへ行くことにする。そしてミルドレッドも誘い、二人で車で向かうシーンでエンディング。

犯人と思った男が中盤でミルドレッドが勤める店でミルドレッドを脅すシーンもあり、また、その男は事件当時海外にいたという説明があるが、指揮官がいるという意味ありげな署長の説明もある。実はこの男が真犯人だという暗示をミルドレッドを同席させて向かうシーンで締めくくったのではないかと思います。これは考えすぎか。

ミルドレッドが火炎瓶を投げたのをかばうカフェの小人男とのエピソードやディクソンが入院した同室にレッドも入院していて、ディクソンが謝り、一時はむかっときたもののジュースを置いてやるレッドのカットなど、細かいシーンの数々が実によくできている。

ここまで仕上がると流石に圧倒されるのですが、全体のテンポが実に静かでそれでいて力強いのが素晴らしいです。こういうクオリティの高い映画を見ると凡人と才能ある人の差を実感します。いい映画を見ました。