「Vision」
これは知的な映画です。と言わんばかりの映像と展開には正直、気分が悪くなる。確かに映像も美しいし、感性は並外れているように思うが、商業ベースに乗せる映画ではないし、監督の独りよがりにしか見えないところもある。監督は河瀬直美。
奈良県吉野村の山深い森、1人の猟師が歩き回っている場面から映画がはじまる。ここで森を守っている男智はいつも愛犬を連れて、森の中をめぐっている。自然と暮らす老女アキと交わす会話が人と接する瞬間であるように無口である。
ある時、世界中を回って紀行文を書いているジャンヌがこの森にやってくる。彼女は幻の植物visionを探しているという。それは千年に一度生まれる植物だと言われるが、智は知らないという。アキはジャンヌを一目見た途端に来るべき人がきたと呟く。アキは目が見えないのだ。
物語はこのジャンヌと智、アキを中心に巡っていくのだが、どんどんシュールな世界に入り込んで行き、時に突然新しい人物が現れて、意味ありげな行動を起こす。
そして一人の若者が森の中で回転すると森が炎に包まれ始め、その中でジャンヌは赤ん坊を産み落とし、その赤ん坊をアキが拾い上げ、どこかの夫婦のところの縁側に置と、そこの夫婦がこの子を育てようという。どうやらこの赤ん坊はかつてジャンヌがこの地で産み落としたのではないかと思わせる。
visionというのは植物なのか命なのか、その境目のない意味をジャンヌが呟く。物語は美しい景色とシュールな映像をクライマックスに、やがて暗転する。
村の若者が普通にジャンヌと英語で会話をしたり、平然とした知的な演出がどんどん鼻についてくるのだが、全体のまとまりは河瀬直美らしさである。しかし退屈。映画祭に持っていくぞと言わんばかりの映画づくりが見え見えの作品で、正直、これはいただけないなと思った。
「30年後の同窓会」
淡々と進む静かな反戦映画ですが、全編会話が多すぎてちょっと長く感じました。ただ、オープニングから次第に物語として引き込んでいくリズムづくりのうまさはさすがです。監督はリチャード・リンクレイター。
ラリーが、かつての軍隊仲間のサルが経営するバーにやってくるところから映画が始まる。ラリーの息子が戦死し、その遺体を引き取るためについてきてほしいという。そしてもう1人の軍隊仲間で今は司祭であるミューラーを誘いに行こうという。
こうして三人がラリーの息子の遺体を保管してある空軍基地へと向かう。途中三人の腐れ縁的な話が延々と会話として描かれていく。そして現地に着いたが、上官の大佐はアーリントン墓地に埋葬するように勧めるが、ラリーは連れて帰って故郷で葬儀を行いたいと主張。遺体をトラックに乗せて帰ろうとするが、折しもビン・ラディンが確保されたというニュースが流れ、テロと間違われて捕まってしまう。
しかし上官の大佐の口利きで、解放。軍が勧める空輸を拒否して列車で運ぶことになる。物語の後半はこの列車の中での三人の30年前の事件についてということになる。
1人の友人のために三人は命拾いをしたようで、三人でその友人の母親の家を尋ね、かつての礼を言って帰る。
クライマックスはラリーの息子の葬儀のシーンとなる。結局、国家は目的もないままにイラク戦争を起こしたということを非難するするシーンが登場するものの、最後は戦死した兵士を英雄視してエンディングとなる。
画面作りはさすがにリンクレイター監督の感性で美しいし、ストーリー展開も会話中心になるのにしっかりと描いていく演出は見事です。作品のクオリティはしっかりしている佳作の一本という感じの映画でした。