くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「母という名の女」「喜劇 男の子守唄」「血とダイヤモンド

kurawan2018-06-20

母という名の女
全く地味な映画です。画面も背景を逆光にした暗いpショットが多いし、展開も淡々と進んでいく。母親という存在を問うた物語であるのはラストでわかるものの、流石にしんどかった。監督はミシェル・フランコ

映画が始まると男女のSEXの声、やがてクララというやや小太りの女性が経営するカフェのカット、続いて彼女は電話をするがそこへ全裸の妹バレリアが降りてくる。彼女のお腹は大きくて妊娠しているらしい。バレリアは恋人マテオとの間で妊娠したがまだ17歳である。

出産を含め不安なクララは母アブリルに連絡、間も無くしてクララたちのところにアブリルがやってくるが、何かにつけ口を出す。マテオの父も出産には反対だと援助する気がなくほっぽり出してしまう。

そんな状況の中バレリアは娘カレンを産み落とす。しかし、慣れないバレリアは何かにつけパニックを起こすし、マテオともまるでままごとのような生活を始める。必然的にアブリルが手を課すことになる。

ある時、アブリルは勝手にカレンを養子に出してしまい、ショックを受けたバレリアは家を出てしまう。そして連れ戻すために法的な手続きを模索する。一方のアブリルは、一旦かつての夫の使用人のところにカレンを預けたが、自ら引き取り、マテオをバレリアに内緒で連れて行って会わせ、そして体の関係を持つ。

アブリルはマテオと暮らし始めるが、バレリアが見つけ出す。見つかったアブリルはマテオを追い出し、カレンも近くのレストランに置き去りにして消えてしまう。バレリアは親権を取り戻すためマテオと協力、カレンを取り戻し3人で空港へ行くが、バレリアはカレンを抱いたまま、マテオから離れそのまま逃げてタクシーに乗って暗転エンディング。

アブリルとバレリアという2人の女性に焦点を当てて、母について問うたエンディングになっているが、さすがに娯楽性は一切ないので、最後までしんどかった。もちろんアブリルの行動がサスペンスなのだが派手さもないし、食い入るほどの緩急も作り出していないから全体に実の地味な作品でした。


「喜劇 男の子守唄」
作られた時代が1972年という時代背景もあるが、何ともしょぼくれた後ろ向きな作品だった。戦後すぐの混乱の時代をひたすら懐かしむ古臭い人たちの時代遅れな物語。時代はどんどん先へ進まんとしているのに、何を考えてこんな作品をと思わせる映画だった気がします。この頃はまだ中学生ですが、こんな考えが少し世の中に漂っていたのですね。監督は前田陽一

戦後すぐの混乱期に世話になった女性の忘れ形見を律儀に育てる主人公清造が、その子供太郎とチンドン屋の仕事に出るところから映画が始まる。

あとは人情話の喜劇タッチの展開がいかにも松竹色満載で展開。かつての太郎の母親の姉貴分のミヤコ蝶々扮する大阪の高利貸しのオバはんが登場して、そこに清造の叶わぬ恋物語が寅さん風に絡んで、最後はそれなりのハッピーエンド。

何かにつけて、懐かしい闇市時代や、焼け跡時代がどうこうと持ち出す脚本が実に貧乏くさい。もちろん、高度経済成長の頂点からやや陰りが出た時代と言えばそれまでだが、これは日本映画産業の斜陽をそのまま見せているのではないかとさえ思ってしまった。でも、これも当時の世相を反映する一本なのです。


「血とダイヤモンド」
これは面白かった。画面作りも映画を作るという姿勢がしっかり出ているし、ライティングもモノクロームを有効に使った光の効果も素晴らしい。さらにたった一晩の物語を二転三転させる物語構成で見せて行く面白さもあって、本当に掘り出し物でした。監督は福田純

ある組織が、これから実行しようとする三億円相当のダイヤモンド原石強奪作戦の打ち合わせをしている。車の配置段取りを確認して、タイトル。画面が変わると段取り通りに車が動く様子が映されるが、突然一台のオープンカーが乗り付けられ、ダイヤを奪ってしまう。しかしその犯人の中の1人が逃げる時にこけてしまい、それを助けた首謀の小柴が肩を撃たれてしまう。しかし、まんまと逃げ果せる。

ここに保険会社に雇われて調査をする探偵が登場、そして、ダイヤを現金に変える男も登場する。当然警察も物語に参加してくるが、撃たれた男の容態が悪く医者を連れてくることになり、ある病院の初老の医師の娘を拉致して医師を連れてくる。

物語は、この小柴たち一味の仲違いや裏切りを交互に描きながら、その利益に加わろうとする探偵たちも絡み、さらにまんまと横取りされた組織の動き、警察の捜査とどんどん物語が絡み合って行く。

時折、時計台の時計のカットを繰り返し、時間の流れの緊迫感を生むとともに、小柴が銃弾を取り出すために探偵の血を輸血したり、さらに急性破傷風になり、血清を取りに行く羽目になったりと、てんこ盛りのエピソードがモノクロのフィルムノワールタッチの映像で描かれて行くスリリングさがたまらない。

結局、ほんの僅かにほころびた裏切りから組織も警察も小柴たちの隠れ家に集結。最後は銃撃戦になるが、犯人たちは皆撃ち殺され、探偵と医師、その娘が救出されて映画が終わる。

解説に書かれた通り、和製フィルムノワールの傑作と言えるかもしれない一本でした。
エンディングで撃たれた犯人の一人一人のカットも絵になっていて、最後まで絵作りしていこうという姿勢が実に爽やかでお見事と言わざるを得ない一本でした。これが映画ですね。