くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「スーパーシチズン 超級大国民」「ナイルの娘」

kurawan2018-07-16

「スーパーシチズン 超級大国民」
映像を操るとはこういうことを言うのだろう。色彩と物語、過去と現代を縦横無尽に駆使して描く一人の男のドラマ。そして台湾の歴史。作品のクオリティは相当に高いがいかんせん台湾の歴史に疎いので前半入りきれなかった。でも素晴らしい一本です。監督はワン・レン。

トラックとジープが夜の道を走ってくるところから映画が始まる。降りてきたのはこれから銃殺されようとする男たち。その中にタンという、この物語の主人公の仲間がいる。そして銃殺される。

一人の老人コーが老人ホームのベッドで目覚める。頻繁にこの夢を見る彼はかつて1950年代、戒厳令白色テロの時代、政治的な読書会に参加して逮捕され、タンの名前を明かして釈放された過去があった。

タンの名前を出したが、タンはすべての罪を引き受けたために死刑となり、仲間は助けられたのである。コーは彼の墓を探すことにし、かつての知人を尋ね回る。映画はその姿を追っていくが、時に若き日のコーの姿や、彼の妻がコーに離婚を言い渡され自殺する物語などが語られる。

コーの娘の夫は政治家となるも収賄で逮捕され、どこか殺伐とした現代の家庭の様子も描かれて、決して順風満帆ではない現実も描きながら、コーが悔いても悔やみきれない過去へと戻っていく。

そして、とうとう、竹林の中に乱立する墓石の中にタンの墓を発見、土下座して謝り、すべての墓石にロウソクの火を灯して物語は終わる。

コーは、娘そしてかつての幼い頃の娘と手を繋ぎ、浜辺を歩き微笑む姿でエンディング。

台湾の歩んできた歴史とコーの人生のドラマが交錯していく展開が見事な一本で、ここまで映像演出をドラマティックにこなした演出力に脱帽してしまいます。見事な作品でした。


「ナイルの娘」
アイドル映画的な青春群像劇で、名前の区別と人物関係は最初は把握できず、とらえどころがなかったが、次第に、主人公シャオヤンの物語で、兄は泥棒を家業とし、父はどうやら警官であるらしいと見えてくると、物語がわかってきました。インサートカットを有効に使った画面作りが、不思議な感覚を醸し出す秀作で、単純な話なのにどこか甘酸っぱい切なさを感じさせてくれました。監督はホウ・シャオシェンです。

主人公シャオシェンのセリフで映画が始まる。やがて大人になり、兄と父はしょっちゅう喧嘩をしている。シャオシェンは兄の勤めるレストランの若者を憧れるが彼はヤクザ関係の女性と関係を持ち、さらにそれがきっかけで、その男性が撃たれたり、父が職務中撃たれて重傷を負い家に帰ってきたり、兄も忍び込んだ先でバットで殴られ死んでしまう。

様々な出来事を描きながらも、シャオシェンの青春時代が語られる展開。兄の死を知ったシャオシェンが網戸を開けて外に出て、画面に人がいないインサートカットでエンディング。

素朴な話ながらどこか青春の1ページを見たような清々しさが見え隠れする素敵な作品でした。