「小説家を見つけたら」
とっても知的でいい映画でした。こういう洗練された映画を見ると、自分の中に何かが変わるような気がします。監督はガス・ヴァン・サント。
下町のブロンクス、バスケットコートで黒人の若者たちがバスケットをしている場面から映画が始まる。一人抜群にテクニックのうまい少年、彼がジャマール、この物語の主人公である。
このコートを見下ろすアパートの窓から一人の男が双眼鏡でじっと見ている。近所の住人からも不気味がられているこの男は、ウィリアム・フォレスター。かつて素晴らしい小説を一冊出したがそれきり表に出なくなった男である。
ジャマールは友達に冷やかされて、ある夜フォレスターの部屋に忍び込むが、フォレスターに見つかり、バックパックを置いたまま逃げ出してくる。ジャマールが学校では成績優秀で、今の学校では対応できないからと近くの名門私立から入学を勧められる。もちろん成績もだがバスケットの才能も認められてである。
一方、ジャマールはフォレスターからバックパックを返してもらったのだが、その中にジャマールが書いた作文に丁寧な添削がされていた。ジャマールはそれを機会に彼の部屋に出入りするようになる。
新しい学校でもジャマールの作文の成績は抜群で、担当のクロフォード先生から嫉妬されるようになってしまう。そして、課題作文を提出する際、ジャマールがフォレスターがかつて掲載した記事の一言を使ったことがクロフォードの目に止まってしまい、ジャマールは謝罪文を書くか評議会に出ることになる。
しかし、そんな対応に不満のジャマールは、断固学校と対立する姿勢を貫く。また、一歩も外に出ることができないフォレスターを外に連れ出すことに成功、フォレスターも外に出ることで、ようやく自分も一歩前に進んだと実感する。
学校側は、次の試合で優勝をもたらしたら、評議会の件はなんとかしようというチーム監督の提案にのっとり、試合で活躍するが、ここぞというフリースローに失敗する。
やがて、作文の発表会、学校側の態度に反して無理やり出席するジャマール。そこへ、フォレスターがやってきて、小文を披露しクロフォード以下その場の人々を熱狂させる。なんとその小文こそ、ジャマールがフォレスターにあてたもので、ジャマールの兄がフォレスターのもとに届けたものだった。
その小文の素晴らしさに、教員理事もジャマールの処分を白紙にし、改めてジャマールを受け入れることにする。帰り道、フォレスターはジャマールに別れを告げ、田舎に去っていく。
やがて最終学年、あちこちの大学から引っ張りだこのジャマールの元に一人の弁護士がやってくる。彼はウィリアム・フォレスターの担当で、彼は数年前から癌で、先日なくなったのだという。そして彼が住んでいたバスケットコートを見下ろすアパートをジャマールに譲る。
フォレスターからの最後の手紙を読むジャマールの前に、一時は疎遠になりかけたかつてのバスケ仲間が声をかける。そしてジャマールはまたバスケットをしに立ち上がり映画が終わる。背後にオーバーザレインボウが流れる。
散りばめられる名文の数々も素晴らしいが、ジャマールの純粋すぎる目のカット、若き日に大成功したにもかかわらず世間から離れ孤独の中に暮らすフォレスターの対比が実に素晴らしいし、ジャマールを取り巻く素朴な兄や、優しい母、友達の存在感が映画に深みを与え、良質の映像に昇華させている。
クロフォードも一見いけ好かないキャラクターながら、その描き方がさりげなく俗っぽいために映画全体の空気感が損なわれず、かえってスパイスになっているのが素晴らしい。良い脚本、良い演出、良い役者が揃うとこういう映画ができるのだろうなと思います。本当に見てよかった。