くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「坊やの人形」「さらば夏の光」「煉獄エロイカ」

kurawan2018-07-24

「坊やの人形」
「坊やの人形」「シャオチの帽子」「りんごの味」の三部構成の作品ですが、どれもとってもほのぼのさせてくれるヒューマンドラマでした。
「坊やの人形」は監督はホウ・シャオシェオシェン。
ピエロの格好をしたサンドイッチマンの主人公が歩いてくるところから映画が始まる。妻が妊娠し、なんとか仕事をしようと、日本の記事を見てサンドイッチマンを思いつき、顔を塗って映画館の宣伝マンになった。彼の叔父はそんな彼を恥ずかしく思っている。

幼い息子は白塗りの父親の姿を人形のおもちゃのように楽しんでいた。そしてそれだけが父親の励みであった。
しかし、毎朝、道化の格好をして歩く自分の姿に、どこか惨めさを覚えていた。

そんな時、映画館の館主が新しい宣伝で、三輪車に看板を貼る方法に変えると言い出し、青年を引き続き採用する。

喜んだ青年は白塗りの化粧を取り、仕事を始めるが、幼い息子は素顔になった父親になつかず泣いてしまう。意を決した父親はもう一度白塗りにして息子の微笑みかけるのである。

なんとも言えないほのぼのした空気がたまらない素敵な一本でした。

「シャオチの帽子」は監督はソン・ジュワンシャン。
日本製の圧力鍋を売るため片田舎に行商に出ているワンと主人公の青年。青年は軍隊を退役、故郷に妊娠している妻を残して働きにやってきた。

ある時、一人の美少女シャオチと知り合い、自分が彫った貝をあげる。最初は戸惑っていた少女だが次第に打ち解けていく。一方相棒のワンは、なかなか鍋が売れないので、豚足をお客の目の前で煮て、食べさせてみようと、張り切って出発する。

青年もその準備に豚足の毛を抜いているとシャオチがやってきて手伝ってもらう。

シャオチはいつも帽子をかぶっていて、青年は気になって帽子を脱がすと、なんと頭のてっぺんがただれて毛がなかった。一方ワンは豚足を煮ていて鍋が爆発、大怪我をする。そこへ、青年の妻から青年に、お腹の調子が良くなく、不安なので帰ってきて欲しいと連絡がくる。

青年はワンの病院に駆けつける一方、故郷の妻の元へも行きたいがいけなくなったもどかしさ、そしてシャオチの姿を思い出し涙が溢れてくる。そして街頭に貼った圧力鍋のポスターを剥がすのである。

淡々と進む話が終盤一気にドラマティックになりもどかしいラストで締めくくるテンポが実に良い映画でした。

「りんごの味」は監督はワン・レン。
夜明けの街、一度の車が走ってきた一人の男を車で轢いてしまう。車を運転していたのはアメリカ大使館の大佐で、轢かれた男は病院へ連れていくが、家族を連れていくため地元の警官と家を訪ねる。

しかし、バラック建てのみすぼらしい集落でなかなか家が見つからず、ようやく探し当てたが、子沢山でその日暮らしの貧しい家だった。

経済的な差を目の当たりにしながら戸惑う大佐だが家族を病院へ連れていく。

家族はあまりに美しく贅沢な作りのアメリカの病院に戸惑ってしまうが、一方で、稼ぎ頭が大怪我をしたことで、あしたからの生活をどうするのか大佐に必死で訴える。

しかし、大佐は、保証については十分すると答え、沢山の果物や食べ物を家族に与える。一個のりんごで2キロのコメが買えると、なかなか食べようとしない妻たちに、怪我をした夫は、家族みんなに食べるように促す。

そして、画面が移り変わると、怪我も治った家族の集合写真、綺麗な服を着て幸せそうに微笑む姿があった。

アメリカと1960年代の台湾の経済的な差をコミカルに描いた作品で、アメリカ映画なら嫌味なところだが台湾の映画ということで見ていて好感な一本でした。

以上3本とも、もう少し経済的に余裕があれば何もかもうまくいくのにと迫ってくる1960年代の台湾の姿を浮き彫りにしており、その社会的テーマと家族の物語という組み合わせの一貫したドラマがしっかりとこちらにメッセージを訴えかけてきます。

演出や絵作り、ストーリーの組み立ても秀逸で、映画作品としてもクオリティの高い3本でした。


「さらば夏の光」
大好きな映画「さらば夏の光よ」に酷似した題名ですが全く違う作品。どう見ても「去年マリエンバード」ですが、全体が実に美しい画面構図と色の演出が秀逸。どこか見たような当時のヨーロッパ映画のごとしですが、漂う映画の空気が実に知的で美しい。監督は吉田喜重

主人公川村信がよロッパの都市で鳥羽直子と出会う。あとはセリフを背景に流しながら映像だけがひたすら詩的に展開する。その空気感が陶酔感を呼ぶから大したものです。

派手な展開もシーンもないけれど、美しい絵作りのオーバーラップにただただうっとりしてしまいます。

ATG作品ですが、どちらかというと普通に見られる一本という印象の作品でした。


「煉獄エロイカ
流石に難解、時間が前後左右し空間も前後左右していく展開はわかるのですが、頭の中で整理が追いついて行きません。監督は吉田喜重ですが、この人の並外れた頭脳が作り出しているものについていけない映画でした。しかし一方で、知的な空気が全編に漂っているので、理解しようとのめり込んでしまう魅力ある映画でした。できるならこれから何度か見直して見たくなる一本です。

物語は、主人公たちが計画する革命の物語、その同士の間での裏切りの話、同士の中の女構成員の両親の物語などなどが、シャッフルされて展開していきます。

屋内から突然屋外に移り時間がジャンプしたり、空間が切り替わったり、が繰り返され、スタンダードながら画面の中心を決して使わない人物配置と極端な画面割りによる構図が映像作りの個性を見せつけてくれます。

ラストシーンが一体どの位置のことかわからないままに映画が終わりますが、癖になる映画ですね。面白かったです。