くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「天使の恍惚」「秘花」「青春の殺人者」

kurawan2018-08-27

「天使の恍惚」
まさにATG映画の典型のような作品で、自己主張をグイグイと前に出してくる一本でした。監督は若松孝二

東京で革命を起こそうとする若者たち。米軍基地から武器を奪取し、東京のあちこちを爆弾で攻撃し始める。その内にこもった行動がたまらないほどに自虐的ですが、当時の若者たちの行き場のない感情が爆発している様が映像として結実しています。

仲間割れの末に、自暴自棄にあちこち爆弾を投げつけていくクライマックスはなんともやるせない気持ちに苛まれてしまいます。

自分のメッセージをひたすら映像にしていく若松監督のプライベート映画のようで正直退屈ですが、これもまたATGでしか描けなかった世界だと思います。


「秘花」
ここまでくると、ATG映画といってもただのエロ路線の一本になってくる。繰り返し繰り返しSEXシーンが登場し、突然叫び出すインパクトでつないでいく感じで、正直しんどかった。監督は若松孝二

浜辺に打ち上げられた船の中で男と女が抱き合っているシーンから映画が始まり、そのあとは、場所を変えての繰り返しになる。

ラストは喪服の女と燃える船の中でのSEXシーンでエンディング。

解説では、革命を逃げ出してきた男女の愛の行く末ということになっているが、そういう中身はほとんど見えない。ただ、時間を引き延ばすだけの繰り返しのSEXシーンの連続にしか見えないのですが、間違っているのでしょうか。

通常のエロ映画とはちょっと違う気がしなくもないですが、そもそも若松孝二は好きな監督ではないので、退屈でも仕方ないです。


青春の殺人者
ほぼ40年ぶりくらいの再見、大好きな原田美枝子のデビュー間もなくの頃の傑作である。今見直して、ほとんどシーンを覚えていなかったが、なるほど傑作でした。初監督らしい若々しいバイタリティあふれる画面作りに監督の才能を感じたし、役者それぞれが抜群にうまい。監督は長谷川和彦

主人公順が父にあてがわれたスナックの店先で恋人のケイ子とじゃれあっているシーンから映画が始まる。雨の中、取り上げられた車を取り戻しに順は父の元へ向かい、見つかってしまう。そして、何気なく話を始めるのだが、ケイ子とのことなどに及んで来て、険悪なムードになる。そして次の瞬間のカットで、順は父を刺し殺していた。このジャンプカットが見事だが、そこに駆けつける母のシーンの編集が実にうまい。

順は警察に行こうとするが、うろたえながらも母は死体を隠してしまおうとし始める。そして、作業を始めるが、母は執拗に順に体を預けてきたり、少しのことでビクついたりし始める。その果てに、母は順に包丁を向けてくる。この場面、母を演じた市原悦子の度肝を抜かれる演技力に圧倒されるしそれを受ける水谷豊も素晴らしい。

そして格闘の末に母を刺し殺してしまうが、母は、最後まで、順が大学に行っておとなしい奥さんをもらってと呟くのだ。この脚本も見事。

順はスナックに戻り、客を追い出して、出て行こうとするが、ケイ子も付いてくる。なんとかまいて、自宅に戻った順は一人死体をくるんで捨てる段取りを始めるが、そこにケイ子がやってきて全てを知る。

そして二人で死体を海に捨て、ケイ子の実家に行き、二人はスナックへ戻る。順は、うろたえながらもなんとかケイ子と離れようとするが、うまく行かず、とうとうスナックに火をつけ、自分は屋内で手を梁に結わえて死のうとするが、飛び込んできたケイ子とすんでのところで脱出してしまう。

スナックが燃えるのを呆然と見る二人だが、順はさりげなくケイ子から離れ、一人トラックの荷台に隠れる。順がいなくなったのにケイ子は気がつくがすでに近くにいない。トラックが走り出し、順はいずこかへ去って行って映画が終わる。素晴らしい。

監督のカット編集のうまさ、時折繰り返される順の過去の思い出、父や母への思慕、後悔ともなんとも言えない水谷豊の表情も素晴らしいし、相手役原田美枝子の抜群の受けも見事。演出、カメラ、脚本、演技、何もかもが見事に溶け合った結果の傑作でした。