くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「喜望峰の風に乗って」「迫り来る嵐」「まぼろしの市街戦」

喜望峰の風に乗って」

素人なのに、単独で無寄港ヨット世界一周した男の話かと思っていたら、人間ドラマだった。しかし、主人公のドラマというより、嘘をついてどうしようもなくなって自殺した普通の人間にしか見えなかったのは残念でした。監督はジェームズ・マーシュ

 

航海計器の会社を経営するドナルドが、愛する家族と過ごしている場面から映画が始まる。必ずしも順風満帆ではない会社経営の中、単独で世界一周した男のスピーチを聞いて、たまたま企画されていたゴールデン・グローブ・レースに参加することを決心する。スポンサーを集め、独自のヨットを建造、なんとか出航するが、思うように進まない。

 

一方で、故郷からは彼に必要以上の期待の声が届いてきた。やってはいけないと知りながら、ドナルドは虚偽の報告をすることを決心、最下位で寄港すれば航海日誌が読まれることもないと判断する。

 

物語は、そんな中で孤独と戦いながらのドナルドの姿が描かれるが、悩み苦しむ苦悩の人間ドラマの描写が弱く、自然の脅威の迫力も弱い。そして、ライバルが次々と脱落し、最下位で寄港することができなくなった彼は追い詰められ、自殺することを選ぶ。

 

一人の人間を追い詰めた人たちの物語とドナルドの孤独が描ければ成功だったのかもしれないが、非常にその辺りが胸に迫る部分がなく、結局無茶をした凡人の末路のような映画で終わってしまった。何が足りなかったかはわからないけれど、もうちょっと心のドラマが描けていたらと思います。

 

「迫り来る嵐」

ミステリアスな人間ドラマという感じの作品で、サスペンスというより、ちょっとサイコな作品。監督はドン・ユエ。

 

主人公ユイが出所するシーンから映画が始まる。高い壁の外を歩いていて、振り返るとサイドカーを運転する男。かつてのユイの姿である。彼は工場勤務だが、推理ごっこが好きで、この日もバイクで、近所で起こった連続婦女暴行殺人事件の現場に向かっていた。警部のジャンを始め警察でも有名なユイは、死体現場まで行き写真を撮る。

 

その後も、後輩のリウと、犯人探しを続け、怪しい人物を追いかけては、詰め寄っていた。ある時、工場のそばで見つけた男をリウと追いかけていくうちに、リウは高所から落下し死んでしまう。一方、工場の模範工員として表彰されるユイ。

 

捜査の過程で見つけた一人の女のヒントから、暗い雰囲気の男を探す。たまたま恋人のイェンズに近づいてきた男を追い詰め、半殺しにしてしまう。一方、ユイの異常な行動に気がついたイェンズは、ユイの前で、列車に飛び込んで自殺する。

 

ユイは逮捕され、冒頭シーンへ。かつて表彰された工場のホールに出かけたユイだが、ここにきた老人に、そんな表彰式はなかったと言われる。ユイはバスに乗り何処かへ行く。外には雪が降っていた。結局、ユイの妄想だったのか。リストラの時でさえ、優秀なはずのユイは解雇されている。ユイは異常なサイコだったというエンディングでいいかと思いました。

 

映像全体は、ほとんど雨や、薄闇という演出を徹底し、フィルムノワールのような空気感が重厚感を生み出しています。見応えのある一本でした。

 

まぼろしの市街戦」(4Kデジタル修復版)

何十年ぶりかで見直しましたが、さすがに名作ですね。物語の組み立てや微に入り細に入って見事です。ラストシーンは胸が熱くなって涙ぐんでしまいました。監督はフィリップ・ド・ブロカ

 

北フランスのとある街、第一次大戦末期、ドイツの劣勢が明白になり、この街を撤退するにあたり、すべて爆破、破壊する準備が進められている。この街のレジスタンスで理髪師の男は、イギリス軍に、暗号を送り、危機を知らせるが、ドイツ軍に殺されてしまう。

 

暗号を聞いたイギリス軍は街を救うべく伝書鳩担当のプランピックに命令を与える。爆弾のプロでもないのに、命令されるままに街にやってきたが、ドイツ軍に追いかけられ、思わず精神病院に飛び込んでしまう。そしてなんとかやり過ごしたのだが、病院の鍵が開いたままになり患者たちが街に繰り出す。そして思い思いの衣装に身を包み、街の人が逃げ出した空っぽの街で、自由な生活を始める。

 

プランピックは、爆破を阻止するため、暗号の意味を探すが、理髪師はすでに死んでおり、訳がわからないまま王様にされて、コクリコという可愛らしい女性と恋に落ちる。時間は刻々と迫る中、真夜中の鐘がなる寸前に暗号の意味がわかり、爆破を阻止。

 

それを外から見ていたイギリス軍が街にやってきて、大騒ぎをし、花火を上げようと爆薬に火をつける。てっきり失敗したと思ったドイツ軍は爆薬の花火に、成功したと勘違いし街に戻ってくる。そして街の広場でイギリス軍と鉢合わせし、お互いに撃ち合って死んでしまう。夜が明けて、解放軍が入ってくる中、患者たちは病院へ帰っていく。

 

街を離れていた人たちも戻ってきて、プランピックにも次の赴任先が指示され、車に乗るが、病院の前を通った時、車を降り、鳩を持って全裸になって病院の門の前に立つ。名シーンである。

 

病院内、楽しそうにトランプをするプランピック、そして窓の外を見て一言語る患者のアップでエンディング。

 

皮肉なブラックコメディですが、笑いの中に毒があり、その毒が実に軽く、しかも意味は深い。この絶妙なバランスが見事で、まさに演出感性のなせる技としか言いようがない。名作とは、こういう唯一無二の仕上がりを見せたときに生まれるものなんだと感動してしまいました。